第13話過去の忘れ物

わたしは、松本未来、十五歳、中学三年生、職業、小説家。


未来は、たまたま出した新人文学賞に入選した。

複雑は気持ちだった。

本気で小説家になりたかった親友の前田舞が同じ新人賞で落選したのだ。


元々、舞が未来を誘って出した小説だった。


『人間ペット。』


人間が人間をペットのように飼う話だった。


若干十五歳で書いた小説はベストセラーになり社会現象になった。


そして、未来は孤独になった。


学校では、シカトされ不登校になった。


それでも、担当編集者は、わざわざ未来の住んでいる田舎まで通って来ては次回作を書いて欲しいと言う。


未来には地獄だった。



パジャマ姿の未来とスーツ姿の編集者木下茂。


「松本先生、小説書いてはくれませんか?」


未来は自宅で茂と打ち合わせをしていた。


「書きません!」


未来は小説と聞いただけで鳥肌が立つ。


「学校に行けないのなら東京の私立の中学校に転校する事も出来ます。」


未来は、コタツに潜り込んで茂を拒絶した。


「おい!お前、ガキのくせに生意気すぎるぞ!」


いつ入って来たのか長身の男が未来に言った。


「おい!上野、先生に失礼だぞ。」


「ここのボロアパート、外に声が丸聞こえなんですよ。失礼なのは松本先生の方でしょう?木下先輩がこんなに頼んでるのに。」


未来は、コタツから顔だけ出して上野を睨んだ。


「よし!ボウリング行くぞ!」


上野は無理やり、コタツから未来を引っ張り出して車に乗せた。


茂はオロオロしながらも後部座席に座った。


上野の運転は荒かった。


助手席の未来は気分が更に悪くなった。


ボロボロのボウリング場の駐車場に車を停めて上野は未来の手を握って店に入った。


茂は、トイレに駆け込んだ。


「ゲロか。」


とだけ上野は呟いてボウリングを始めた。


未来はパジャマ姿で恥ずかしかった。


上野は、構わず、未来にボールを渡した。


「わたし、ボウリングした事ない。」


「簡単だ。投げれば良いだけだ。」


渋々、未来は重たいボールを投げた。


ボールは真っ直ぐに転がりストライクとなった。


「やるじゃねーか!」


上野の言葉に未来は照れ笑いを顔に浮かべた。


二ゲーム終了した後に茂が戻って来た。


未来は、久しぶりの運動に喜びを隠せなかった。


「松本先生、嬉しそうですね。」


と少し寂しそうに茂は言った。


「そんな事無いですけど…。」


未来は恥ずかしそうに呟いた。


それから、カラオケに行って喫茶店に三人は行った。



「お前、転校しろ。」


とコーヒーを飲みながら上野はオレンジジュースを飲んでいる未来に言った。


「…。」


「木下先輩、手続きよろしくお願いします。」


「おい、松本先生が決める事だ。」


未来は、小さく頷いた。


「良いんですか?松本先生?」


「はい。」


未来は、本当は学校に行きたかった。

それを、上野は見抜いていた。


家に戻って佐智に未来は転校の事を伝えると


「そう。」


とだけ佐智は答えて、承諾した。

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