第9話故郷

未来には、故郷に残している母親がいる。


父親は、未来が幼い時に蒸発している。


だから、未来は、見えない父親像を礼二に求めているのかもしれない。


久しぶりに母親の佐智に電話してみた。


【お母さん。】


【あら、未来、久しぶりね。】


佐智は、昔からサッパリした性格なのだ。


地元で介護の仕事をしている。


そのおかげで、未来は東京の大学に進学出来た。


本当は、大学を卒業したら地元に戻って自分も介護の仕事に就こうとしたが

佐智に反対された。


「本が、好きなら東京で頑張りなさい。」


と言われた。



大手の出版社に内定をもらえた時は信じられなかった。


そこそこの大学、そこそこ学力。それが未来だった。


大学時代、小説を書いては出版社に送ったが一次選考すら通過しなかった。


本は、たくさん読んだ。


ジャンル問わずに乱読した。


友達にホームページを作成してもらって短編を書いては載せていた。


観覧数はゼロに近かった。


アダルト系の書き込みが多く未来は書くのを止めた。


自分に書く才能がないと分かり小説を書くのも止めた。


彼氏は、何人か出来たがキス止まりで別れた。


つまりは、未来は処女なのだ。


未来は、自分から告白したことが無かった。


流されるまま付き合ってすぐに分かれるを繰り返していた。


恋愛もダメ小説もダメ。


つまり、好きな人に巡り会えてないのだ。


礼二は、何故か懐かしい雰囲気を持っている男なのだ。


厳しい上司だが、好きになってしまった。


ふと愛人でも良いと思うぐらいである。


妻子がある男を好きになってしまった自分は悪女なのかもしれない。


でも、抑えられそうにない気持ちという感情なのだ。


狂おしいほど好き…。

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