苦の花

 かれは暴力的だった。


 嗜虐的でありながら

 自虐的でありながら

 楽観的でありながら

 客観的でありながら

 弛緩的でありながら

 不敵でありながら

 好気的でありながら

 悉無しつむ的であった。


 花は複数でありながら唯一であった。


 花には家族がいなかった。


 花は愛を知らなかった。


 花は恋を知っていた。


 花は暴力を知っていた。


 花は咲うことの意味を知っていた。


 花は痛みを知らなかった。


 花には友人がいた。


 花には親友がいた。


 花は友情を知らなかった。


 花は愛情を知らなかった。


 花は喜劇を好んだ。


 花は悲劇をもっと好んだ。


 花は憎悪を知らなかった。


 花は快楽を知っていた。


 花は怒りを知らなかった。


 花は悲哀を知らなかった。


 花は幸福を知っていた。



 花は友を知った。


 花は愛を知った。


 花は恋を知らなかった。


 花は怒りを知った。


 花は憎悪を知った。


 花は悲哀を知った。


 花は痛みを知った。


 花には恋人がいた。


 花は空を見上げない。


 花はSRC造を見つめない。


 花は空の鏡面を見つめていた。


 花は鏡面にたなびく波に垣間見える、紫の花を見つめていた。

 

 章魚の花は怒りを覚えた。


 苦の花は恋を知った。


 章魚の花はいまだ、恋を知らず。

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