綵花物語

夢乃陽鞠

神の花

 神の名の下に咲いた赤の花。

 それは神の遣わした救世主を救う花でした。

 対の翅を持つ虫たちが踊る、赤の翅が粒子を放ち生命の代替物となる。

 

 死者さえも蘇らせる奇跡の力は、神勅により地上へ咲かせられた『神の花』と呼ぶに相応しい。


 どんな病も怪我も思うままに恢復させてしまう花を、人々はもっと欲するようになりました。神の花は年に数十輪しか咲かぬ花でしたが、人々はこの花を人の手で増殖させる方法を研究し、ついに究明したのでした。


 然り而して、神のもとを離れた人工的「神の花」は赤色せきしょくから紫色ししょくへと相貌を変える。伴って、飛び交う翅もまた妖艶な羽ばたきで紫色の粒子を撒き散らすようになりました。


 涯てに世界は黄沙に染まり、すべての生命はただ紫色の花のためだけに生き、死ぬことを定められたのでした。


 円かなる花畑の中心の点として質量も延長もなく、少女の形として世界すべてに語りかける私は、ないし彼女は、露命を繋ぐ儚き者たちへ慈しみ深く笑みます。炳として存する彼らが私にはどうしようもなく愛おしく、恨めしいような、妬ましいような、筆に上すのも放棄してしまうほどに動心させる。


 彼らの歓びも哀しみも憎しみもすべてが愛おしい、だから、私がこうすることは必然であり運命である。誰も彼も、例外なく私のものなのである。


 ゆえに神の花は、世界を創生した。


 




 

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