第3話 やらんでええこと

(あほくさ。こんなんやらんでええやろ)


 今までの人生、そう思うことばかりだった。


 小学校の運動会、中学校の朝礼、高校の文化祭や卒業式、大学の卒業研究発表会、社会人になってからの会社の定例ミーティング……


 振り返ってみても、何か有意義だったためしがないし、記憶もない。



 ある日の会社の定例会。

 課長の作成した資料の誤字脱字を、部長達が指摘しただけで終わったことがある。


(あ、もうこの会社やめよ)


 別に僕が怒られたわけでもないし、今までもこんなことは何回もあった。辞めるほどのことでもないが、とにかく辞めてしまおうとなんとなく決心した。


 辞めたからといって何をするわけでもない。


 ただ、急にすべてがどうでもよくなってしまったのだ。

 今まで我慢をしすぎたツケが、今になってやってきただけなのかもしれない。



 次の週には会社を辞めていた僕は、とりあえずアパートの自室で引きこもってみた。

 いつもしていた自炊も、今では宅配で料理を頼んでばかりだ。

 週に1回はしていた部屋の掃除も、今では全くやっていない。


 僕は「やらんでええことをやらんでいい状態」というのはこんなに心地よいものだったのかとすごく驚いた。けど次第にある不安が頭をよぎる。


「働かねば、半年後には貯金も尽きてアパートを追い出される」


 そう頭ではわかっていても、心と体が「働く」ということを拒否してくる。

 というより、僕は無意味だと感じるものをやること(やらされること)を心からきらっているのだろう。



 僕は半年後どうなってしまうのだろうか。




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