なんでも ショート ショート ショート
アイスティー・ポン太
第1話 コウスケくん
僕の友達のコウスケは変なヤツだ。
奴はおかしな癖がある。
それは「固有名詞を微妙に変えて喋る」とういう癖だ。
たとえば「週刊少年ジャンプ」の話をするとしよう。
普通は「今週のジャンプさ~」といった感じで会話をするだろう。
しかし彼は
「え、もう『ザンプ』買ったん?」
「やばい、来週の『ジュンプ』楽しみだわ」
「俺、もう『ジャンポ』買う金ねーわ」
といった感じで、絶対「ジャンプ」とは言わないのである。
他の例を挙げよう。
僕らのクラス担任で桜井先生という優しい先生がいる。
僕ら生徒が先生に話しかける時は「桜井先生~」といって呼びかけるだろう。
ところがコウスケは
「
とか
「
と変な呼び方をするのだ。もちろん先生は優しいので
「コウスケ君、私はサクライですよ。「ざくらい」ではありませんよ」
「はい。」
と穏やかにコウスケ君を諭すのであった。けれど彼は未だに先生の名前をちゃんと呼んだことは一度もない。少なくとも今のところは。
そんなコウスケ君であったが、つい最近こんな出来事があった。
それは水曜2校時の国語の授業中のことである。たしかその日から「オツベルと象」という話に入る感じだった。
コウスケ君は、僕の右隣の席の一つ前の席、つまり一つ右斜め前の席にいる。音読させられるとしたら、彼が先だろうなとぼんやり考えていた。
「それでは、今日から「オツベルと象」というお話に入っていきます。この話は~」
担任でもあり、国語の先生でもある桜井先生はいつもの穏やかな口調で授業を進める。
「……それでは早速本文を読んでいきましょう。では前回は佐藤君が読んで終わったから、その後ろの三浦くん」
「はい」
「本文最初の42ページから44ページまで読んでください。」
「はい」
僕の予想した通り、コウスケ君が最初に朗読することになった。
コウスケ君はその場で席を立つと、教科書を両手に持ちスゥゥと大きく息を吸い込んだ。そして
「オツパイとゾウさん!!!!」
と大声で朗読しだした。
その瞬間、クラス中がドっと笑いの渦に包まれた。もちろん笑ってるのは男子ばかりだ。コウスケ君は「やってやったぜ」と言わんばかりの勢いで、44ページまで読み終えた。読み終えたコウスケ君に対して
「コウスケ君、タイトルは正しく、ちゃんと読みましょうね」
と、先生がいつものように穏やかに注意した。
何事もなかったかのように、先生は黒板に本文の解説を板書し始めた。同時にコウスケ君はそのまま席に着いた。が、その瞬間である。僕の一つ前の席であり、コウスケ君の左隣の席に座っている、女子の石原さんがボソッと
「きっしょ……」
とつぶやいたのである。
その日から、コウスケ君のあの変な癖はもう見られなくなった。
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