こなこなきらきら

 あるいは脳内を垂れ流しになったアドレナリンの作用によるものか、俺は身じろぎもせず眼前に散らばる光のかけらを愛でていた。明け方の薄青い景色の中でキラキラキラキラたいそう美しく、俺はしんとした気持ちになる。

 それらの正体は粉砕したフロントガラスの粒々の欠片で、いくつかは俺の流したルビー色した血溜まりに浸っている。大破した愛車のボンネットに上半身を預けた俺はただ目に映るものを愛しむばかり、痛くも寒くも苦しくもなく、ついでに指一本も動かせない。

 このまま死ぬのだろうという漠とした確信があるが、目に映る全てから惹起される平たい多幸感に包まれた俺には、もはや恐怖を抱く能力は失われていたのだ。

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