ベックとラリ

勝利だギューちゃん

第1話

「紙に描いた絵は生きている」


亡くなった母方の祖母がそう言った。

祖母の事は、正直好きではなかった。


意地悪で、外面だけは、よくて、祖父に冷たくて・・


ただ、「紙に描いた絵は生きている」

その言葉だけは、ひっかかている。


棒人間でも、生きているのか?

落書きはどうだ?


素人の俺が描いた絵でも、魂があるのか?


ハガキに絵を描いてみる。

クマのキャラクターだ、


名前は、ベック。

男の子にしよう。


ベック。

魂があるのなら、あの子に伝言を頼む。


「俺は元気でやっていると・・・


縁があったら、また会おう。

そう伝えてくれ」


こうして、そのハガキを今は遠方にいるあの子へと、出した。


あえて文章は書かななかった。

ベックの名前以外は・・・


数週間後。


あの子からハガキが届いた。

リスの絵が描いてある。


かわいらしい。

俺よりも上手い。


ハガキに耳を当ててみる。


『ベックくんからの伝言届いたよ。

私も元気だよ。近いうちに遊びに行くね。

覚えていてくれてありがとう』


そう聞こえた。

リスの名前は、ラリと言うのか・・・


でも、あの子もラリという名前以外の文章は書いていない。


俺はすぐに、返事を描いた。

また、ベックの絵を描いた。


そして、再度伝言を頼む。


『返事ありがとう。ラリちゃんからの伝言を受け取ったよ。

こっちに来るときは、連絡をくれ。

迎えに行く』


そして、即日中に投函した。

今度も、文章は書いていない。


数日後、あの子からハガキが届いた。

ラリ以外の文章は描かれていない。


耳を当てる。


『ベックくんからの、伝言届いたよ。

急だけど、今度の日曜日にそっちに行くね。

12時頃に、駅に着きます。

迎えに来てね』


そう聞こえた。


こうして、俺は指定された日と時間の少し前に、駅に行く。


「来ているわけないな」


そう思い、列車が到着して、ドアが開く。


すると、そこにはあの子が立っていた。

記憶よりも、大人っぽい女の子になっていた。


「来てくれたんだね。ありがとう。久しぶり」

「ラリちゃんからの、伝言だからね」

「私も、ベックくんからの伝言で会いたくなったよ」


気のせいかもしれない。

偶然かもしれない。


でも・・・


心のこもった絵が、その想いが宿るのは、本当かもしれない。

そう信じたい。

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ベックとラリ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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