スマホが震えた

Mia

通知

スマホが震えた。

午前3時。

七畳1K。

部屋の外は寝静まった街。

その音は部屋によく響いた。

この部屋に住む大学生の加藤圭司は提出期限が明日のレポートを徹夜で書いていた。とは言っても日付が変わっているので正確に言えば今日だが。忙しなくパソコンのキーボードを叩いていたが、スマホが震えた音に手を止めた。

アプリの通知は全て切っていたが、メッセージの通知だけは切らなかったのだ。

しかし、こんな時間に連絡してくる知り合いなんていただろうか?少なくとも俺の知り合いには夜中に連絡してくるような非常識なヤツはいない。

酒に酔って連絡してきたのだろうか?それとも悪戯か?

ホーム画面から送られてきたメッセージを確認すると。

『暇?』

なんだアイツか。

よくつるむ友人からだった。

少し気が抜けた。

暇ではない。俺が今必死にレポートを書いているのをアイツは知っているはず。

無視して画面を閉じようとすると新たにメッセージが届いた。

『おいおい、無視するなよ〜。お前の事だから、どうせあと少しでレポートが終わるんだろ?息抜きに俺と遊ばない?』

コイツの言っている通り、確かにレポートはあと少しで終わる。息抜きをしても良いと思うが、コイツとは遊ばない。というか何で今俺が無視した事と、レポートが終わりそうな事を知っているんだ。気持ち悪い。

また無視しようとすると。

『お前が欲しがってた俺の腕時計やるからさ〜。な、お願い!』

あの腕時計か。アイツがいつも身につけていて、文字盤のところが一部透けて中の歯車が見えるのがとてもカッコいいのだ。

なるほど、悪くない条件だ。少しだけアイツの遊びに付き合ってやろう。

『少しだけだからな』

『お、やった!緑山に行こうぜ、緑公園に集合な!』

緑公園、ここからだと2kmはある。


『わかった』

地味に遠いなと思いながら俺は上着を羽織り、自転車の鍵を持って部屋を出た。

外は暗く寒い。街は街灯の明かりが静かに光っていて、三日月が空から俺を見下ろしていた。

10分程で緑公園に着いたが、アイツの姿が無い。そんなに広くない公園だし、公園全体を照らすように明かりが点いているので居ればすぐ分かるのだが。

まだここに来ている途中なのかもしれない。

アイツから誘っておいて待たせるとは、まったく。

『着いたぞ』

メッセージを送って待つことにした。


あれから30分待っているが、返信どころかメッセージに既読すらついていない。

悪戯だったのか?人をここまで来させた挙句誘った本人が来ないとは。多少息抜きにはなったが。

とりあえずアイツに電話をして、これで出なかったらもう帰ろう。

プルルルル、プルルルル。

プルルルル、プルルルル。

プルルルル、プルルルル。


しばらく待っていたが、アイツは電話に出なかった。

もう帰るか、そう思って電話を切ろうとすると。

『悪い悪い』

アイツが電話に出た。

「悪い悪いじゃねえよ。こちとら30分以上も待ってたんだぞ!今、どこにいるんだよ」

『本当に悪かったって。今、緑山にいる』

「おい」

『いやあ、お前を待ってたら我慢できなくなって先に山に入ったんだ』

「俺もう帰っていいか?」

『ごめんごめん!待って帰らないで〜!俺がいるところまで案内するから!』

仕方がない、ここまで来て帰るのも癪だ。コイツに付き合ってやろう。


案内に従って山を登っていく。

山の中は真っ暗で昼間とは違う場所にいるようだった。進むにつれ、だんだん道が険しくなってきた。山道とは違う道を歩いているようだ。

「お前、本当にそこにいるんだろうな」

『本当にいるって!』

「ここまで来ていなかったら、次会った時に殴るからな」

一歩進むのもやっとな程の茂みをかき分けて進むと、少し開けた場所に出た。

辺りはシーンとしていて相変わらず山の中は暗かったが、空は少しずつ明るみ始めていた。

「どこにいるんだよ」

『どこだろうな〜』

スマホのライトで辺りを照らしながら見回して見たが、アイツはいなかった。

「いないじゃないか」

『いるよ』

もう一度見回すと周りの木よりも少し太い木の近くにアイツのメガネが落ちていた。

なんとなく、いや何かに引かれるようにその木の後ろを見た。

「な、いただろ?」

いつの間にか電話は切れていた。

アイツの腕時計は針が3時を指したまま止まっていた。

そろそろ朝がくる。

スマホが震えた。

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