1章 22.キツイってば
魔動物は翼を無くすと戦闘できない状態になる。これはエンザエムやアンカから聞いた話だ。ただあいつの翼をどうやったら潰せれるのか。エンザエムの場合は魔力の多さ強さが大きかったのもあって翼を無くせた。俺らの場合魔力が物凄く多いわけでもない。完全に詰んでいる。
「とりあえず動きを止めたほうがよさそうだな……」
「リーダー!一旦この洞窟広くするぞ!」
「おう!………ってえ!?マジかよっ!」
ガルは地面を蹴って飛び跳ね、天井を殴る。途端、岩はひび割れていき一気に崩壊していった。天井は明るく照らされ青空が見えていく。
「いや、岩がこっちに落ちてこなかったからいいけど!落ちてきたら一瞬で死ぬよ!?特に俺!」
「すまねぇ!でも今はこっちだ!」
綺麗に着地して彼は指を指す。その指す方向に向くと岩を手で払いながらこちらを向く人間状態のナーハの姿があった。
「本当に不快だし心外。ニヒルはいなくなるし私に魔法を撃っちゃってさ……はぁ。ほんと呆れる」
「ニヒルもお前も心外とか不快とか言うけど口癖か?」
「―――何言ってんの?私のために、私が思っていることをただ口に出しているだけ。何も分かんないの?心外」
ため息をつきながらナーハは魔法陣を描いていく。魔法陣は赤いオーラを放ち、中心にオーラが集まっていた。
「私を邪魔して何が楽しいの?賢者もなんか動かなくなるしさ。ほんと不愉快。消えてなくなればっ!」
赤いオーラが球体へと変化していくと同時に俺たちに向かって放たれた。空間を揺らし、地割れを起こしながら近づいてくる。恐ろしい光景を見てすぐさま俺は魔法陣を描く。反魔法であるカウンターを俺は使った。
「そのままお返しを………って…あれ……?」
赤い球が魔法陣にぶつかる。通常、カウンターはぶつかることはなく当たる前にはじき返すのが特徴だ。ただ今見えているのは止まった赤い球。目を見開き驚きを隠せずにいると急にナーハは笑い出した。
「あははははっ!馬鹿なんじゃない!?私の能力を反魔法で止めるとかおかしすぎ!余計呆れる、面白いのは認めるけど!あははははっ!」
腹を抱えて笑うナーハ。少しイラッと来たが深呼吸して精神を落ち着かせる。落ち着いて戦っていかないと相手の思うつぼなのかもしれない。相手をイラつかせ感情に身を任せた奴を潰す。これは気を付けないといけない部分だ。で、一番不安な2人。
「あの女の子何なんですかっ!ちょっと魔法陣を大量に……」
「そうだぜリーダー。あいつぶっ潰す」
思っていた通りの反応に不安を抱く。俺は「待て待て!」と言って戦闘態勢に入っている2人を止めた。
「今感情的になるのは良くない!怒りに身を任せたら単純な動きしか出来なくなる。となると隙が生まれやすくなる!これゲームのしてはいけないランキング第二位!」
「―――わ、分かりました!感情的になるな、だったら隙が生まれやすくなるよ!ですね!」
俺の言葉のまんま返すアンカに「そうそう」と頷く。ガルは話の内容を理解できていないようだが大丈夫だろう。野生の勘で何とかなる。たぶん。
「はぁ……私を放って話し始めるとか心外。ほんとさっきの楽しい感情返してよ。呆れる」
眉を寄せ怒りをあらわにさせながら話す。反魔法で押さえていた赤い球の威力が少しずつ増していき魔法陣がひび割れていく。
「私が楽しくしてるのにさぁ……ほんとおかしいんじゃないの?もう少しマシになるように死んだらどう?だったら戦ってあげるけど。はぁ……ま、弱い奴らには無理だと思うけど」
両手を広げながら首を横に振る。何度も呆れる表情を浮かばせるナーハに再度怒りが支配しようとするが深呼吸をしたあとアンカを見て落ち着かせた。何度も怒りを作り出す能力を持っているのかなどと考えたが違うと分かる。ただただ性格がおかしいため、だ。
徐々にひび割れていく魔法陣。少しずつ抑えられなくなる怒り。これをどうするべきなのかと俺は思考を続けた。
「はぁ……私と戦うの?戦わないの?」
聞こえるように呟く彼女を無視し思考を続けていく。赤い球はいずれ魔法陣を砕き襲ってくる。反魔法で止められないなら氷の壁を造っても無意味。避けたとしても追跡機能付きの魔法という厄介な攻撃のため消す方法を考えなくてはならない。
「そろそろ壊れるけど……ほんと、何もしないんだ。呆れるしイラつく」
脳で訴えかける怒りも彼女の呟きを無視して頭を悩ます。怒りを消すことは不可能だとしても慎重にしようと思っていたら自然と怒りは抑えられていくはず。最大の問題はナーハをどうするか。あいつは魔動物化が可能。その魔動物化したナーハは一段と強くなっていた。魔動物化する前に倒すか動かせなくさせることが重要。
「あのさ?私の声聞こえてるよね。なのに無視?不愉快、人間としてどうなってるの?」
ナーハは再び魔法陣を描き赤いオーラを中心に溜め始めた。
マズいな……もう一度撃たれたら一瞬で劣勢……それどころか瞬殺。こんなに考えることエンジョイ勢のゲーマーだから滅多にないってのに。
自分がエンジョイ勢だったことを悔やみながらも思考を巡らせる。
「ロー君~?少しは頼るのも大事だと思うけど~?」
何も考えが出て来なくなってきた時、脳に鈴のような声音が響き渡った。煽っているかのように、そして少し苛立ちを見せているかのように言う。時の精霊、レイルだ。
「1人で解決しようって思うのがダメ。ブブーだからね!」
赤ん坊か!とツッコミを入れつつ話を聞く。
「エイちゃんが言うには、あの魔法は何かおかしいんだって」
何かがおかしい……見たところおかしいと思う部分は反魔法が役立たずになっている部分。
「そうなの。魔法の法則的なものに当てはまってないからおかしいってわけ。で、エイちゃんが考案したのは『ドッカーン作戦』!」
…………
「あ、あれ!?ロー君、聞こえる!?急に何も聞こえなくなったけど!」
呆気にとられる俺は無意識にため息をついていた。もう訳が分からない。レイルもエンザエムも親戚か何かなのかと思う程馬鹿だと思う。脳内ではレイルがドヤ顔だったのが見えていた程想像がつき、呆れるような作戦。ただ言っているのは賢者だ。良い方法なんだろう。
「ロー君~?全部聞こえてるからね~?」
はい、すんません。ほんとに。
「それでよし!で、その『ドッカーン作戦』をお教えしましょう!」
時間があと少し……それどころかもう無く危機的状況の中、賢者エンザエム考案『ドッカーン作戦』の説明に入った。
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