1章 5.『歴史を動かす2人』

 俺たちは不思議な壁の中へと入っていき、視界が変わったことに気づく。洞窟の闇とは別に、光がある。太陽の光だ。洞窟の地面の岩と違い、緑色がある。草原の草だ。洞窟の黒単色と違い色鮮やか。花だ。

 目の前に映っている光景は花畑、『楽園』があった。


「青い鳥が鳴き、一面花畑、その花のいい匂い……まさに賢者の楽園か……で、上が―――」


 上を見上げるとガラスが1つあった。ガラスの奥は砂嵐で空はまったく見えなく、状況や景色は認識できない。


「地下に楽園なんて聞いたこともねえよ……大体空の上にあるのに、異世界は違うんだな~」


「上は地獄で下が天国だろ、リーダー。リーダーの故郷は逆なのか?」


「そうなんだよな~。ま、どっちでもいいってのが正直思ってる」


「ま、ここは天国じゃねえしな」


 ここは天国でも地獄でもない、『賢者の楽園』だ。なぜここが楽園で、『賢者の』なのか気になるけれど、それより重要で問題なのは、賢者はどこへ行ったのか。


「賢者の後継者だから賢者の楽園にいる。これが普通なんだろうけど―――」


「憶にある屋敷以外いる可能性はないですね……周りを見ても全く人の姿はないので」


 またもや『屋敷』だ。魔人がいた屋敷といい今度は賢者の後継者がいる屋敷。問題を一気に解決する方法は屋敷に入ること以外にない。

 ―――アンカやガル、俺も息を呑む。


「行こう」


「はい」「おう」


 勇気を振り絞り、屋敷へ俺たちは向かって歩いた。

 奥にあると思っていた屋敷は、歩いて数分も経たないうちに着くほどの距離だった。屋敷の色は白く、傷などは一切ない。前の屋敷と全く同じ状態、色。ただ1つ違うところがある。――門がない。


「門がなかったら安心するんだよな……前アンカが門に触れて戦闘する羽目になったし」


「す、すみません……」


 顔を赤らめながら頭を下げる。そんなアンカをずっと見ていたかったが。


「またゆっくりできる時にってことで。じゃあ、行くか」


 扉の前まで着いた俺は、両手で扉を開く。


「―――誰だ」


 突然声が聞こえた。力強い声の圧、勇ましい声の圧、強者の圧、全てが存在している声で魂が押される――否、実際に足が後ろに下がっている。


「質問返しで悪いが、お前こそ誰だ」


 声が少し震えていることに感じながら俺は正面を向く。腰元に鞘に収められた剣。白い騎士服。短髪で金色の髪色。青い瞳の男。


「俺の予想は騎士と見た……」


 小さくつぶやき結論を出す。そして思考を再開させた。

 鞘には赤色の鳥が描かれているってことは、フェニックスかなんかか……。賢者の楽園にいて、屋敷の中にいた。つまり賢者の、いや、その後継者の仲間か?


「私の名前も聞かずに思考。とんだ客が来たものだ」


 何食わぬ表情で彼は言った。


「私は天の騎士、ニヒル・グラディウス・エンザエム」


「世界に愛された唯一の騎士であり、賢者に愛された唯一の後継者」


「―――!」


 男の言葉に付け足すように入り込んだ声。2度目の再会でもある人―――『賢者 ナーハ・エンザエム』が姿を現す。アンカやガルは頬を強張らせ、賢者を睨(にら)んだ。

 睨まれた賢者はため息をつき、話し始める。


「ホントに呆れる~。あの弱い男のほうがまだマシ」


「くっそ……リーダーのこと言うんじゃねえ!!」


「待て待て、落ち着け!」


 怒りに身を任せ、飛び出そうとしたガルを俺は必死に止めた。どれだけ性格が死んでるやつでも賢者の後継者なのは確か。その横には圧で人を殺せそうな騎士もいる、勝てるかと聞かれたら「NO」と即答するレベルだ。


「とりあえず、もう少しだけ情報がほしい。賢者の後継者と最強後継者の騎士はどんな関係なんだ?」


「―――」


 問いかけに答えず2人の後継者は黙り込む。数分の沈黙の空気をアンカが壊し、話始める。


「答えないのなら、別の問いかけにしますね。なぜお二人だけがこの屋敷にいるのですか」


「すごいね、すごいよ、すごいや!あの人が一番良いね!一番強い!いいよ、答える。この屋敷にいる理由」


 心を弾ませている賢者は、騎士の背中に触れながら言った。


「楽園で眠っている『賢者と魔王と勇者の復活』。それをするためにいる」


「―――!」


「私たちはもう魔王の復活に成功したんだよ。この世界は私たちを拒絶するし、ここに閉じ込めるし、世界にイラつくけどまあしょうがないよね。大罪を犯したんだから」


 賢者の話に俺たちは身が強張った。魔王と言うのは突然変異進化によって生まれた、とアンカから聞いていたが、賢者の話が本当ならば偽りの情報となってしまう。賢者は嘘をついたり、何かを企むことができないような性格。となると―――


「――本当に復活させた……でもな……」


 おかしい。やっぱりおかしい。勇者や賢者の復活は分かる。だが、魔王は復活させても災厄をもたらすだけだ。後継者には全く利に―――


「なることはない。だが私たちはしている、なぜなんだろうか――そう言いたいようだね」


 思考を読んだかのように語る騎士。驚きが隠せなかったが、俺は小さくうなずく。すると騎士は唇を緩ませ声を出す。


「歴史を動かすためだ」


「理解できねえよ」


 騎士の言葉に俺は恐怖と怒りを覚えた。

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