0章 7.ソル、サモン、ドラゴン

「すみません……急に泣いたりして……」


「別にいいって!それより、なんで泣いたんだよ」


 気になることだらけだ。普通に話していて急に泣き始める……あー見てられない!!


「その……私、わがままでしたよね……」


 ま、まさか……そんなことで責任感とか感じて泣いた………全然いいのに。


「俺は、気にしてないからな?だからこんなことで泣かないでくれ!」


「……………はい!」


 涙を拭って呼吸を整え、笑顔で返事をした。俺も笑顔でうなずき、この豪邸の中を見て回った。


 さっきの絵、奈落のような暗さの家具だけど、視界に入った途端、真っ白に色が変わっていくもの。歪んだ部屋、登れない階段。斬れない剣……何の攻撃でも通す盾。……段ボール。


「変なものがいっぱいあるな……現実世界にもある『段ボール』もあるし」


「え!?」


 驚いた表情をしながら大声で叫びこちらに向かって来る。段ボールに反応したと思うが―――


「……段ボールの中に俺の家はないぞ?」


「そ、そうなんですか!?」


 やっぱり……勘違いしてた。1回、『これはこうやって使うもの』や『これはこうするのが正しい』と言われたり経験したらそうだと思い込んでしまうってやつかな。


「ほら、中見たら……何も……」


 アンカの勘違いをなくそうと段ボールの中を覗く。


「おいおい……俺の……部屋?」


 見てすぐに分かった。ボロボロの天井が中にあるなんておかしいのと、宙に浮いて止まっているあの『猫』もいたからだ。


「あ……あれ?お前、どこに行ったのかと思っていたのに、宙に浮いてたんだな……ってなわけないだろ!?」


「す、すごいですね……猫は空を飛ぶ能力を持っているなんて……」


 目の前の状況が理解できず目が奈落になっている。俺も正直理解できていない。猫が……浮く―――


「とりあえず入ってみよう」


 そう言って俺とアンカは段ボールの中に入った。中はちゃんと俺の部屋。俺の部屋に置いている物も一緒。


「でもおかしいな……さっきこいつは浮いてたのに」


「今はまさ……ロクさんの膝元にいますね」


 まるで瞬間移動をしたかのように猫がここにいるのだ。


「……よし!怖いから帰るぞ!帰るって言ってもここが俺の家、帰る場所だけどね!?」


「はい!」


 俺とアンカはまた段ボールの中に入り、あの家に戻った。


 *


 真っ白の家の前に2人と1匹の影があった。1人、金髪でツインテールの女の姿。『ソル』。もう1人、茶髪のショートの女の姿。『サモン』。サモンの手のひらに乗っている赤いドラゴン。



「やっほー……っていないのかよ~。お迎えに来たってのに」


「おそらくですが、殺されたのかと」


「マジで!?あいつは殺さないって思ってここに連れてきてやったのに~?」


 ソルがため息をついて、家を見る。


「そういえばさー、この屋敷ってこんな白かったか?あいつが魔法でやったんだったら死んでると思うんだけど~?」


 自分の髪を触りながら言う。サモンは、目の前の地面に魔法陣を展開し、そこから鏡を取り出した。


「こちらで過去を見てみては、いかがでしょう」


 サモンが提案すると「いいね!」と言いながら鏡を覗き込んだ。鏡には『チャラ男』の姿がある。


「10分前なのにいるじゃん!なんで死んだんだ?」


 質問するソルを無視して鏡を見つめる。チャラ男は黒い屋敷を見つめた後、屋敷の中へ入って―――と思っていた時だった。


「―――この男と女は何者でしょうか……」


 黒髪の男と赤髪の女が屋敷の前を通り過ぎそうになった時、屋敷の存在に気づいた。普通の人には『見えないはずなのに』だ。


「おいおい!この男が屋敷を見た瞬間真っ白になったぞ!?」


「まさか……そんなはずは―――」


 目を擦り、何回も見るが色が一瞬で変わっている、前からあった傷すらない。この家、否、屋敷は『魔人』以外見えることはない。屋敷の傷も魔法ですら癒えず、色なんて変えようなんてすると『神』に罰が与えられる。


「この男……男が見ている部分しか白くなってねえじゃん!!すげー!面白いなーこいつ!!」


「あの女は白い部分しか見えてないようですね。あの男が気になりますね」


 男があの女に何か言っている。門に触るといけないと言っているのだろうか。だとしたらただ者ではない。


「門に触ったな~あの女。あいつが片付けてくれるか!」


「そ、そうですね」


 後少しで神が創られたこの『魔人』は殺されるはず。この男に殺されるのではないだろうか。最強4大魔人の1人、『グライヤ』が。


「こんな奴に殺されねーよな~……って殺されたぞ!?こんなにこいつ弱かったか!?」


 簡単な魔法であっけなくやられている姿が映っている。最初は逃げて隠れていたはずなのに、急に理解ができない動き方をしていたり、グライヤが急に魔法を使わなくなったこと……この男に何かある。


「大丈夫だと思います。4大魔人には自分を殺した相手の名前が誰かに言われた瞬間、生き返る能力を持っています。ですから―――」


「死んだぞ?」


「ま、まさか!そんな!生き返りました!生き返ったときの魔人は能力が一時的に倍増するはずでは!?」


「でも死んでるんだぞ?もうしょうがないって。……隠れろ―――!」


 ソルはサモンとドラゴンを転移魔法で近くの『あの男』の視界に入らない場所に転移させた。


 ―――どうしよっかな~こいつ、強いし、一旦帰って報告としますか~―――


 そう考えた後、前を向く。そこには―――


「おい、お前誰だ?」


「人ですよ?ロクさん……」


 あの男と女だった。

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