0章 6.ロク
「なんで……お前、生き返ってるんだよ!!ち、チート!?」
「―――」
あ、こいつしゃべらないんだった。なんでこいつ、生き返ったんだろうか……確か、俺の名前を言った瞬間だったよな―――
「あぶない!」
アンカは風魔法を使い、俺を吹き飛ばす。真横にはチャラ男が通り過ぎていく影が見えた。助けてくれたんだ。
「ありがとう!魔法、使いたいけど……ん?無意識に俺、あいつを灰にさせたよな……魔法使えるじゃん。なんで魔法陣展開できなかったんだろ」
もう1度想像してみると、簡単に魔法陣が展開される。無魔の加護、意外と使える加護なのかもしれない。体を起こし、風魔法で足のスピードを上げ、岩魔法でチャラ男を閉じ込める。
「ゲームでは、動きを読むのは得意だけど、現実だとどうなるか!」
相手が真上に来ると読み、拳を下ろす。
「―――」
「あたり~」
俺の読みは見事的中。ゲーム、やって悪いものではなかった、そう思っている。……なに、このラスボス倒した感じ。
「―――」
「ま、まさ―――」
「ちょっと待って!俺の名前を呼ばないでくれ!」
「何を……言ってるんですか?」
これは、『やったか?』と言ったらフラグになって相手は生きている、みたいな感じで俺の名前を呼んだら何かのフラグになって相手は生きていることになる感じだろう。わけわかんねえ。……加護の可能性が―――
「えー、ちょっと俺の名前を呼んだら相手が生き返るらしい。で、アンカに俺の加護を見てほしい」
「は、はい!分かりました!…………えーっと、そんな加護は……ありませんね」
あれ……?じゃあ、なんだったんだよ……まあ、気にしなくていいか。そう思った後、俺たちは、最初見た家のところへ戻って行った。
「あらためて見たら、この家、屋敷とか、豪邸って感じだな。でも、こんな真っ白な豪邸だったっけ」
汚れ、傷がないおかげか、より白く見える。アンカは目をキラキラさせながら開いている門から中へ入っていく。俺も後を追うように中に入って行った。
「庭……広いな」
「そうですね~。噴水やベンチ、花だらけの場所とか、すごくきれいです」
ここを1言で言うと『公園』だ。まあ、花畑がある特別な公園だけど。これが庭なんて、どんな貴族だったんだろう。
「家の中に入ってみましょうよ!!」
「罠があったりするかもしれないだろ?一旦見てから―――」
「入ってみましょうよ!!」
目をキラキラさせながらこちらに訴えかける。どれだけ言っても、危険だったら困るし、アンカが危なくなるのはごめんだし。
「一旦周りを見てから罠がないって確かめて―――」
「入ってみましょうよ!」
「だから―――」
「入りましょう!」
「あのな……―――」
「お願いします!入らせてください!!」
アンカは諦めない、全く諦めなかった。もう、反論できる力がない……
「わ、分かった。別に周りを見たら入ったんだけど……」
俺がそう言うと、アンカはスキップしながら。
「すぐに入りたかったんですよー!!」
と言って扉の前まで行き、振り向く。同じ歳だと思うのに、子供のわがままを見ている感じ。見ていて楽しい。
「気を付けていくぞ」
「はい!行きましょう!!」
何も警戒せずに扉を開ける、俺はため息をしてアンカについて行く。中は誰かが住んでいて、掃除までしっかりされた豪邸だった。いろんな家具、物の色は基本的に白。最初見た時は奈落のような黒の家具が、次見た時には白くなっているという謎の現象も起きる変な屋敷だ。
「いい家だな~ここ。……この絵……誰かを書いた絵……」
壁に掛けられた絵。高級そうな額縁の中に、誰かが書かれた絵があった。額縁に傷はないが、本体の絵のほうは、傷や汚れがあり、かなり近くに寄らないと顔は見えないと思う。
「まさ――じゃなくて、ど、どう呼べばいいですか?」
俺の名前を変えておかないといけないけど、変な名前は嫌だし。
「アンカ、星って知ってるか?」
「知ってますよ!神が『加護』を物体化させてこの世界に落としたものが『星』です!1年に1度、神の祠(ほこら)という洞窟のようなところに1つ置かれているそうですよ?」
思っていた星とは違った……この世界の星の名前が現実世界の星の名前と違ったら、言いたかったんだけど……もう、かっこいい感じの適当な名前にするか。
「『シュッツ』とかどうだ?」
「なんか変です」
かっこいいと思って言った言葉が……悲しい。
「じゃあ、『ロク』とかどうでしょう!」
「六?数字?嫌だな~数字の名前って」
「数字じゃないです!私の故郷の意味で『聖地』って意味なんですけど。だめですか?」
なぜか泣きそうな顔で言ってきた。アンカに嫌われたくない気持ちが大きく、俺の名前は『ロク』となった。
「まさか、自分の名前が変わる日が来るなんてなー……」
「そ、そう……ですね」
暗い顔で下を向いているアンカを見る。アンカの涙が下に落ちていく。泣いているんだ。
「ご、ごめん!なんか俺、悪いことしたか!?」
―――俺は必死に謝った。アンカの泣き顔を見たくない一心で―――
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