第15話:父兄同伴・バーツ視点
眼の前の男、王弟殿下がいまだにガクガクとした動きのままだ。
もう五回目、いや、六回目のデートだというのに、まだ慣れない。
最初は笑えたが、今ではため息しか出ない。
いったいどれほど臆病なんだ、この男は。
鬼神のごとき戦場での戦いぶりはいったいどこにいったのだ。
「……どうぞ」
ようやくだ、ようやく無言からは脱却できている。
ガクガクの動きはそのままだが、震えだけは止まっている。
そう考えれば成長したと言えるかもしれないが、遅すぎる。
初めて戦場に出た新兵でももう少し成長が早いぞ。
そうか、そうだな、戦場に例えてケツを蹴り上げてやるか。
こんな時でもなければ、俺が王弟殿下のケツを蹴るなんてできないからな。
「ふっふふふ、砂糖を取ってくださいますか」
「はっ、はい」
アマーリエの方が王弟殿下よりも余裕があるな。
あれほど劣等感でネガティブな考え方をしていたのにな。
今回の戦いはアマーリエの方が圧勝だな。
今では王弟殿下を揶揄う余裕さえあるようだ。
王弟殿下の真意を知りたいのなら、自分から質問してみろと言ったのがよかったのかもしれないが、少し楽しそうだな。
王弟殿下が自分を王配の立場すると言ったのは本能が言わせたのかもしれないな。
このカップルは、アマーリエは王弟殿下を尻に敷いた方が上手くいきそうだ。
尻に敷くと言うのは言葉が悪いな。
夫婦関係に関しては、アマーリエが王弟殿下をリードした方が上手くいくと言った方がいいな。
「王弟殿下、この砂糖菓子はとても甘くておいしいですわよ。
ひとつ食べて見られては如何ですか」
ふむ、徐々にアマーリエの殿下に対するからかいの度合いが強くなっているな。
これは殿下の本心を知るための探りなのか。
それとも殿下を怒らせて婚約を解消させようとしているのか。
このままでは殿下が追い詰められ過ぎてしまうな。
「もうそれくらいにしなさい、アマーリエ。
王弟殿下は子供の頃から甘いものがとても苦手なのだよ。
無理に甘いものを勧めて気分を悪くされたら、魔獣が現れた時に戦えなくなる。
私は王弟殿下が出陣できないせいで戦死するのは嫌だからね」
「申し訳ありません、兄上。
少々悪乗りし過ぎてしまいました。
以後気をつけますのでお許しください。
アラステア王弟殿下に対して、とても失礼な事を申し上げてしまいました。
どうかお許しください」
「……許す」
おい、こら、もっと気の利いた事を言え。
これでは俺が完全に悪者ではないか。
まいったな。
またアマーリエが周囲をうかがうような態度になってしまった。
余計な事を言ってしまったようだな。
これは、一からまたやり直しだな。
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