第14話:初デート・アマーリエ視点

 全く何も話しかけてきません。

 ものすごく怖い顔をしています。

 兄上の話を聞いていなければ嫌われているとしか思えません。

 ですが兄上の話は今でも信じられないのです。

 だから醜い私と一緒にいるのが嫌なのだと思います。


「……」


 何も声をかけずに、ガクガクとしたぎこちない動きで私をエスコートしようとしますが、全く様になっていません。

 先日のあの雄々しさはどこに行ってしまったのでしょう。

  これは本当に女性に不慣れでぎこちないのでしょうか。

 それとも醜い私を嫌って嫌々やっているからでしょうか。


「……」


 私を椅子にいざなおうとして差し出された手が小刻みに震えています。

 これは女性に不慣れで緊張しての震えなのでしょうか。

 それとも醜い私に触れるのが嫌なのに、国のために仕方なく触れなければいけない事による震えなのでしょうか。

 兄上に話を聞く前なら嫌われていると言いきれたのですが、話を聞いてしまったからでしょうか、ほんの少しだけ希望を持ってしまいます。


「やれ、やれ、兄同伴の初デートなのに、何をそれほど怯えている」


「怯えてなどおらんわ。

 ちょっと緊張しているだけだ、これは怯えではなく武者震いだ。

 女性と初めてデートするのだ、よろこびのあまり武者震いして当然であろう」


 王侯貴族が婚前に初デートをするのです。

 お目付け役に誰かがついてくるのは普通です。

 しかし、兄同伴というのはさすがに珍しいですよね。

 しかし、私には震えて何も言えないのに、兄上には怒鳴りつけられるのですね。

 でも顔が真っ赤になっています。

 兄上とは戦友だという事ですが、戦友に見られたくない所を見られ、恥ずかしい所を指摘されたという事でしょうか。


「私にそれくらい怒鳴りつけられるのなら、アマーリエにも言葉くらいかけられるでしょ、さっきから無言ですが、そんな態度だとまたプロポーズを断られますよ」


「うぬぬぬぬぬ」


 さっきよりも更に顔が真っ赤になっています。

 全身がブルブルと震えています。 

 今度の変化は私にも簡単に分かります、間違いなく怒りですね

 兄上に言われた事に怒っています。

 そうなると図星をさされて怒っているという事になるのですが、信じられません。


 本当にこんな醜い私を愛しているというのでしょうか。

 実の母親ですら妹しか愛していなかったのです。

 父の場合は家の事が一番大切で、政略の事しか頭にない人です。

 私だけでなく妹もエヴァンズ公爵家の為に利用するだけです。

 兄上は私がまだ小さい頃に騎士になるために家を出られましたから、このような性格だとは最近まで知りませんでした。


 私はどうすればいいのでしょうか。

 信じたいけれど信じるのが怖いです。

 プロポーズを今直ぐ断る事もできず、お受けする事もできません。

 このままダラダラと引き延ばしていいモノなのでしょうか。

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