第7話:プロポーズ・アマーリエ視点

 本当に怖かったです。

 今でも手足の震えが治まりません。

 あれほど恐ろしく緊張した状態で、よく言葉が出たと思います。

 その事だけは自分を褒めたいと思います。


 ロバート王太子が廃嫡されることになったのは可哀想ですが、あの性格では王位に就いた時に多くの家臣領民が苦しむことになりますので、仕方ありませんね。

 アレグザンドラは悪気はないのですが、少々欲が深すぎます。

 姉としては無罪放免を願いたいですが、帝王教育を受けた身としては、修道院で性根を叩き直してもらわなければいけないと思います。


 そういう大切な事は、アラステア王弟殿下がしてくださるでしょう。

 今まではできるだけ王国の政務には係わらないようにされておられました。

 ですが今回はロバート王太子を廃嫡にした責任があります。

 もう逃げる事など許されません。


 あれ、私は独り言を言ってしまったのでしょうか。

 アラステア王弟殿下が怖い顔をしてこちらに近づいて来られます。

 政務から逃げたいアラステア王弟殿下を怒らせてしまったのでしょうか。

 壁に張り付くように立っていたので後ろに逃げることができません。

 ああ、もう間近に来られてしまいました。

 これでは逃げようがありません。


「アマーリエ嬢、貴女の気高い心と優しさに私は心を奪われてしまいました。

 貴女ほど心の美しい令嬢に出会ったのは生まれて初めてです。

 今ここで告白しなければもう二度と貴女のような心の美し方とは出会えない。

 だから勇気を振り絞ってこの場で告白させていただきます。

 どうか私と結婚してください。

 お願いします、この通りです」


 いったい何が起こっているのでしょうか。

 アラステア王弟殿下の申されている事が全く理解できません。

 いえ、言っている意味は分かります。

 意味は分かりますが、その相手が私だという事が理解できません。


 私は不器量過ぎてロバートに婚約解消を迫られた女です。

 もう誰とも結婚しないと心に誓って壁の花に徹してきた女です。

 そんな女相手に、地位も名誉もあるアラステア王弟殿下が、今耳に入って来たよな事を口にするなど絶対にあり得ないです。


 ですが、アラステア王弟殿下は真剣です。

 嘘や冗談で正式な騎士の礼はとれません。

 騎士は主君に対して敬意、服従、忠誠心を表すために片膝をつきます。

 同じように求婚する相手に対しても永遠の愛を誓うために片膝をつきます。

 ここまでされては嘘や冗談と笑ってすますわけにはいきません。


 ですが、私はもう男性に傷つけられるのは嫌なのです。

 もう二度とあのような想いはしたくないんです。

 私なこんな容姿です。

 今は私の心を愛して下さっているかもしれません。

 ですがいつ心変わりされるか分からないのです。

 どうにかお断りする方法はないものでしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る