第6話:美姫・アラステア視点

 誰もが恐れ側に近づかないようにしている俺の前に立ち塞がる。

 百戦錬磨の騎士や戦士でさえ俺を怒らせないようにしている。

 そんな俺に対して信じられない勇気を振り絞って騎士道を説いているのは、騎士でも戦士でもない貴族家の令嬢だ。

 それも命懸けで庇っている妹は、自分を陥れた当人なのにだ。


 自分を陥れようとした妹を庇うために命を賭ける。

 何と気高く美しい魂だろうか。

 普段からとても美しい魂だったが、今日は特に美しく光り輝いている。

 万人が褒め称えるべき美しさなのに、ほとんどの王侯貴族が骨肉の上にある表面の皮だけで美醜を判断してしまう、何と愚かな事だろうか。


 後々の事を考えればここで王太子とアレグザンドラは殺しておくべきなのだが、アマーリエ嬢の勇気ある行動を無にする事はできないな。

 いいじゃないか、上等だ、死神将軍と恐れられた俺だ。

 アレグザンドラという悪女がなにを企もうと跳ね除けてやる。

 ロバートが王家王国の力を使ってこようと叩き潰してやる。

 二人がどのような悪辣な手段を使ってこようとこの手で粉砕してくれる。


「わかったよ、アマーリエ嬢。

 あなたの気高い心と勇気ある行動に免じてこの雌豚は許してやろう。

 だがそれは俺の怒りを収めるだけで、王弟としては別だ。

 ロバートを誘惑して王家の政治を歪めた事は決して許される事ではない。

 国王陛下、隠れていないで出てきていただきましょうか。

 国王として責任を持った行動をして頂きますよ、分かっていますね」


 歳の離れた臆病者の兄がこの国の国王だ。

 ロバートが小心で卑怯なのは兄に似たのかもしれない。

 だがバカなのは母親に似たのだろうな。

 両親の悪い所だけを引き継いだとしか思えない愚物だ。

 兄はバカではないから脅したらこちらの思い通りに動いてくれる。

 問題はバカな王妃に引きずられる可能性だな。


「分かっている、ちゃんと分かっているぞ、大将軍。

 ロバートを廃嫡してお前を後継者に選べと言うのだな。

 分かっている、お前を皇太弟とする」


 兄はこんなにバカだったか。

 俺が王位には全く興味がない事くらい知っていたはずだが。

 バカな王妃から悪影響を受けているのか。


「そんな面倒なモノは不要です、国王陛下。

 王家王国の政を私利私欲を歪めた者をちゃんと処罰してくれればいいのです。

 王太子に責任をとらせて廃嫡にするのは構いません。

 ですが私にその後に責任を背負わせるのは止めていただきたい。

 王太子のような重責を背負う気など毛頭ありません。

 そんな事よりもアレグザンドラの処罰です。

 これだけはキッチリとやっていただかねば御政道が正せませんぞ」

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