第3話:恥
「申し訳ありません、申し訳ございません、申し訳ありません。
この通りです、この通りです、この通りでございます。
全て私が悪うございました。
どうかお許しくださいませ、この通りでございます。
命だけは、命だけはお許しください、アラステア王弟殿下」
マクガヴァン伯爵は必死だった。
恥も外聞もない、死にたくない一心だった。
天下無双の剛将、泣く者黙る「死神大将軍」を激怒させてしまった。
警告や脅しを超えて、いきなり決闘を申し込まれてしまった。
もうどちらかが死ぬ、いやマクガヴァン伯爵が殺される以外の道はない。
激怒したアラステア王弟殿下を抑える存在などこの世の何処にもいない。
その事は過去の戦いで証明されていた。
もし国王陛下が止めに入ったとしても、止まらないだろう。
いや、弑逆と簒奪の切っ掛けになるかもしれないような事を、国王陛下がするわけがないのだ。
まして卑怯で憶病で身勝手な王太子やその取り巻きが、賄賂を受けた事を証明するような助け船などだすはずがない。
全ては自分が間合いを間違ったのが原因だとマクガヴァン伯爵は悟っていた。
社交界で無能の烙印を押される事は分かっていた。
だが死ぬよりはましだと必死で詫びていた。
「だったら命懸けで魔獣の侵攻を抑えた将兵に詫びてもらおうか。
彼らがこれからも気持ちよく戦えるように、誠意を見せてもらおう。
その誠意がおざなりだと判断したら、魔境警備軍を総動員して報復する。
その間の魔境から魔獣が侵攻してきたとしても、そのために王国が魔獣に蹂躙されることになっても、全部マクガヴァン伯爵の責任だ」
それまでは他人事だとマクガヴァン伯爵の愚行を嘲笑いながら聞いていた王侯貴族だったが、アラステア王弟殿下の言葉に顔面蒼白となった。
激怒して理性を失ったアラステア王弟殿下ならば、魔獣の侵攻にあわせて魔境警備軍を移動させる可能性があった。
普段から自分達が王侯貴族の義務を果たさず権利だけを享受している事は、よほどの馬鹿でなければ自覚していたからだ。
「叔父上、それは幾らなんでも大将軍としていかがな発言かな。
それに王侯貴族ならばその立場に応じた義務がある。
叔父上の今の発言は、大将軍としても王弟としても失格ではないかな」
愚かな王太子の馬鹿な発言だった。
阿諛追従の側近を侍らせ何の責任も果たさない、努力もしてこなかった王太子が口にしていい言葉ではなかった。
アラステア王弟殿下の目には、王太子の発言を聞いて哀しそうにしているアマーリエ嬢のオーラが見えた。
プチリという堪忍袋の緒が切れると音が王弟の心で鳴った。
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