第29話 三章◇ありがちな最強の聖霊と聖獣 06

「聖獣同士の仲が悪い、なんて初めて知ったわ」


目の前の光景に私が思わずそう呟くと、二人の喧嘩をぼんやりと見ていた白羊宮アリエスがふわぁとあくびをしながら言った。


「いや〜、あのふたりは特別仲が悪いんだよぉ。相性が良くないっていうか、そもそも性格が正反対でねぇ〜。」


「えっ! そ、そんなことあるんだ…あ、あるんですね?」


「あはは、いいよぅボクに敬語なんて使わなくて〜。ボク、そういうの気にしないし〜。」


もふもふの毛を揺らしながらふふふと笑う白羊宮アリエス。この緊迫した空気の書斎で、癒しでしかない。


「あ、そういえば初めましてだねぇ。ボクはアリエス。白羊宮のアリエスだよ〜。ライラと契約をした聖獣のひとりで、見ての通り羊をかたどってるんだ〜。」


「あ、私は──」


「サラ、だよね〜。ライラから聞いてるよぉ。まだ幼いのに大人の話を理解できるなんて、サラはすごいねぇ〜。」


「いえ、そ、そんな……!」


「ふふ、ほら、敬語敬語〜!」


私たちのやりとりを見ていた両親が生暖かい笑顔を浮かべているのが視界のはしに映った。

さっきまで氷のように冷たい気配を漂わせていた父様ですら、ほんわりと笑っている。


「あ、あの、アリエス…?」


「なぁに〜?」


「あの、その、と、止めなくていいの……?」


アレを、と指差すのはいまだに言い争いを続けている天秤宮ライブラ獅子宮レオ白羊宮アリエスはそちらを見もせずに頷いた。


「放っておけばいいよぅ。ライラがお仕事だぁって喚んだのに、言い争いなんかしてるヤツなんか〜。」


それよりも、お仕事って何〜?と明るく母様に話しかける白羊宮アリエス

そ、それでいいんだろうか……?本当に?


「お仕事はアリスちゃんと会わせることだったの。それから──」


「ああ、いい加減本題に入ろうか。──天秤宮ライブラ。」


獅子宮レオ。お止めなさい。」


一瞬でまた冷たく低くなった二人の声に、びたっと動きを止めるふたり。


「こうやって『縛り』を口にすると『命令』が出来る様になるのよ。覚えておいてね、アリスちゃん」


「え、あ、うん……?」


ねえ母様、そんなことを言っている場合なのだろうか?

天秤宮ライブラ獅子宮レオもぎちぎちと音が出るんじゃないかというほど身体を震わせて立ち尽くしている。

本当に、大丈夫なんだろうか……

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