第3話 ありがちな前世の記憶? 02
「ごめぇ〜ん、間違えちゃったぁ☆」という、神の軽い言葉。
アレクサンドライトの頭にはクエスチョンマークしか浮かばなかった。
間違えた?なにを?あ、これもよくあるパターンで、神様が転生する人を間違えたとか、そういう……という希望は、神の…エーテルコラの一言で、すぐに消えていった。
「記憶、残したままにしちゃったわぁ。こっちに来ちゃった魂はぁ、記憶消さなくちゃいけないのにぃ。」
「え。」
「またアクアエリオスに怒られちゃうわぁ。」
やれやれ、と首を振った女神に、アレクは絶望した。
「こっち、に、って? また、て、そんな、あること、なんです、か。」
「え、普通にあるわよぉ? 覚えていないだけでぇ。」
動揺が声にありありと現れていたが、エーテルコラは気にしない。さあ記憶を消しましょう、と腕まくりの仕草をする。
パクパクと酸欠の金魚のように口を動かすが、うまく言葉は出てこない。
「そっちの、ミスで……?」
という言葉を最後に、アレクからは前世の記憶が消えていった。ふざけんな、ちくしょう……という気持ちも、神様──エーテルコラに対する恨みも、共に消えていく。
その後、転生ボーナスもお詫びもなく、平民として普通に光精霊と契約をして『神の祝福』は終わった。
転生前の記憶が消えて残ったものは、異常なまでの『火魔法』への憧れだけ。
そこからは、魔術師になるために魔術学校へ行き、気持ちの悪いくらいのしつこさで王宮魔術師に弟子入りという名の雑用係として仕え、資質のない火魔法を使おうとして魔法が暴発し、爆死した。
そんな、悲惨な転生劇だった。
思い出すだけで前世の悲惨さに涙がちょちょぎれそうだ。そして、記憶を取り戻した……いや、強制的に記憶を引き出された今、恨まれているなどとは思っていないエーテルコラのふわふわした笑顔にイラっとする。
つまり私は、ニホンで事故死してから転生先でも事故死をした、なんとも可哀想な魂の三番目の人格だった。
ただ幸いなことに、記憶を戻された反動であろう頭の痛みは治ってきていた。とはいえ、別の意味で『頭が痛い』のは、治りようがない。
「それで、何故ですか。私に記憶を『戻した』のは。」
そう、そこなのだ。間違えちゃったぁ☆と記憶を奪ったのは、間違いなくそこにいるエーテルコラで、そして『消さないと怒られる』といっていたのだ。
そもそも、前世の記憶は残っていても前々世の記憶など残らないものだ。文献で見た限りでは、魂の中に留めておく事が出来ないもの、らしい。自然に消えていくものなのだそうだ。さらにいえば、脳に対する負荷で記憶にも留めておく事も出来ない。人間、本来どうでもいいことはすぐに忘れてしまう程度の記憶力しかないのだ。
『記憶を消さないと怒られる』というのも、両方の世界を知っている今ならば理解はできる。世界のバランスが変わってしまうからだろう。
「わざわざ記憶を戻すこともないでしょう? 何が目的ですか。」
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