第27話
『運び屋スカイ』にめがけて下降する頃には、ナニーナはすっかり『みんなのお母さん』に戻っていた。
今日はこれで一件落着かと思ったが、そうはいかない。
事務所の前で、ふたりのマッチョが大暴れしていた。
「アギョッ! 我が名はアギョ! この『運び屋スカイ』が王族のフロイラン様を毒殺したというのはお見通しだ!」
「ウギョッ! 我が名はウギョ! 大人しくスカイを出せい! 我らが成敗してくれるわ!
出さぬのであれば、この社屋もろともブッ潰してくれよう!」
昨日の今日どころか、今日の今日に乗り込んできやがるとは……。
このふたり『ハイランダー運送』の『中層階級エリア』の責任者だったはず。
そこまでの地位となると、爵位はおそらく『伯爵』クラスだろう。
コイツらは多分、あのいけすか野郎の毒殺が成功したものと思い込んでいる。
そして俺をボコボコにして衛兵に突き出すことで、追加の手柄をモノにしようとしてるんだろう。
コイツらがここまで事を急いているのには理由がある。
『ハイランダー運送』、いや、ハイランダー一族ってのは生き馬の目を抜くヤツらばかりの組織だからだ。
いけすか野郎の成功報告を待っていたんじゃ、きっと他のヤツらに手柄を横取りされるだろうと思ったんだろうな。
いままでハイランダー一族の悪巧みは失敗することがほぼ無かったから、その見切り発車でも結果オーライだったんだろうが……。
残念だったな! お前らが送り込んだいけすか野郎は、いまごろ衛兵にとっ捕まってる頃だろうぜ!
俺は着地ついでに、ヤツらの顔を思いっきり蹴っ飛ばしてやった。
「ウギョッ!?」「アギョッ!?」
へんな悲鳴とともにのけぞるマッチョふたり組。
本来ならば一発で埋没させられるのだが、マッチョどもはまだ立っていた。
「ウギョギョギョ! 現れおったな、スカイ!
いきなり不意討ちとは卑怯なり! やはりフロイラン様を毒殺したのは貴様に間違いない!」
「アギョギョギョ! しかし残念であったな!
貴様の攻撃方法など、とっくにお見通し! 埋まらないように、こうして凄い下駄を履いてきたのよ!」
よく見ると、ヤツらはタタミみたいな広さの鉄板の下駄を履いていた。
二人三脚状態で、右脚担当と左脚担当に分かれている。
そんなんでよく歩いてこられたな……と思ったが、ヤツらはその場から動こうとしない。
どうやら鉄板ゲタは、機動性には著しく欠けるようだ。そりゃそうか。
それまでマッチョどもの相手をしてくれていた、女性陣たちが俺のまわりに集まってくる。
「ああっ、スカイ様、やっとお戻りになられました!」
「スカイ、いままでどこ行ってたんだよぉ!?」
「アイツらはバカだが手強いぞ! この俺でも手こずっているところだ!」
俺は抱っこしていたナニーナを降ろすと、みなに向かって言う。
「よし、みんな、俺の身体にしがみつくんだ」
「えっ?」「ええっ!?」「なんだと?」「それは、どういうこと?」
「ヤツらを埋没させるのは、重さが必要なんだ! お前たちの力を貸してくれ!」
俺は問答無用でアイリスをひょいと抱え上げる。
いちばん小柄で軽いである彼女を、肩車して担ぎ上げた。
つぎに、ラブラインとナニーナのコンビの腰を抱き寄せ、そのまま抱え上げる。
俺の両頬が胸で押しつぶされているような気がするが、気にしない。
あとはレディバグに向かって命じた。
「よし、レディバグ、俺に前からしがみつけ!」
レディバグは一瞬逡巡したが、ヤケクソ気味に俺に飛びかかってくる。
体当たりのような抱擁を、俺はどすこいと受け止めた。
俺の周りから、驚嘆の声が漏れる。
「ええっ、女の子を、4人も抱っこしちゃうだなんて……」
「ああ、なんと力強く、たくましいのでしょう……!」
「す、素敵です……!」
「貴様は、バケモノか……!?」
背後からは、下卑た笑い声が。
「ウギョギョギョ! 女たちを抱えて逃げる準備か!?
まさか、その格好でジャンプしよってんじゃねぇだろうなぁ!?」
「アギョギョギョ! そんな格好でジャンプできるのは、神様くらいしかいねぇだろうなぁ!」
次の瞬間、ヤツらは大口をあけたマヌケ面のまま、天を仰いでいた。
「「ギョギョギョギョギョギョギョギョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?
とっ、飛んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」」
「俺ひとりじゃお前らを沈められなくても、5人いれば5倍のパワーっ!
いつもの2倍のジャンプが加わり、10倍のパワーっ!
そして回転を加えれば……! お前らなんざ、クソ雑魚だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」
「アギョォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
……ズドォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
あたりが大地震のように激しく揺れ、地盤沈下が起こる。
大穴の中に沈み込んだふたりのマッチョは、崩れてきた土にそのまま生き埋めになっていた。
ヤツらの顔の中心には、『屈辱ドロップキック』を受けた足跡があり、そこには文字が浮かび上がっている。
『キン肉だけマン』とあり、『肉』の部分がちょうど額の真ん中にあった。
そして俺の目の前には、スキルウインドウが。
『「ジャンプ」のスキルツリーに「ハーレムジャンプ」が追加されました!』
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