絶望の雨には、希望の傘を。
高戸優
絶望の雨には、希望の傘を。
これはちっぽけな僕の持論。
賛同何てきっと得られない、僕の盛大な独りごと。
それでもいいなら、聞いてくれるかい?
誰かの笑顔の裏には誰かの涙がある、誰かの幸福の裏には誰かの不幸がある。全てが表裏一体なんだ、という言葉は何度も目にしたことがあるよ。
けどね、僕は思うんだ。幸福が先にあるんじゃなくて、絶望がずっと周りにあるんじゃないかって。
人は生まれ落ちた時から絶望に身をさらしていて、均等に平等に、常に絶望が与えられている。
さながら、小雨の様にしとしとと。みんなの頭上から降り注がれているんだろう。
だったら、何で皆が皆絶望にまみれて生きていないのかって問われたら、こう答えるしかないんだよ。
ただ、それを感じない人は、希望という名の傘がある。そういうことなんじゃないかなぁ……って。
傘があれば雨には濡れない。時には穴ぼこだらけのもあるかもしれないけれど、少なくとも全身が濡れることは無い。
だから皆、絶望だらけの世界でも笑っていられるんだ。
希望の傘は、自分で得るのもあるし、誰かに差してもらうのもあるだろう。
テストでいい点をとったっていうのは己の実力だ。イベントで勝ったっていうのは皆のお陰だけど頑張った君の実力でもある。
けど、人に差してもらう傘もあるんだよ。
愛情とか、友情とか。どんなに苦しくても、家に帰れば安心するとか。あいつの隣にいれば大丈夫とか。そういうのは、君の周りの人がしっかりと傘を差してくれてるからじゃないかな。
その傘は勿論人が持って君に差してくれている訳だから、中々に気付けないものだけどね。支えてくれる存在がいなくなった傘が君の頭にぶつかった時、ようやく気付けるようなものだけれど。
あぁ、僕はこの人に守られていたんだなって。それなのに、居なくなるまで気付けなかったなんて、って。悲しすぎる気付き方をするんだ。
支えを失った傘は勿論地面に落下する。その後暫く雨にさらされて、君は泣き続けることだろう。その後に傘を大事に抱きしめてさらされ続けるか、涙を拭いながらその人の代わりに己に傘を差すかは君次第。
差してくれていたその人の意思を尊重するか、これを支えられるのは貴方だけだ、と抱きしめ続けるかは君次第。
けれど、覚えていて。その人のほかに、確かに君に傘を差してくれている人もいるんだ。
差し直した君の傘の上で、更に大きな傘を広げている人もいるかもしれない。抱きしめて雨にさらされた君だって、隙間から零れ落ちてきているだけで、幾つも重なった傘があるかもしれない。
見上げてみたら、たくさんの傘があって。恐る恐る傘を閉じてみたけど、絶望の雨にさらされなくって。あぁなんだ、って笑える日が来るといいね。
こんなにたくさんの人に愛されてるんだね、って笑える日が来るといいね。
いつか君だって間違いをするだろう、君が悪くなかったとしても相手に裏切られもするだろう、傘を急に閉じて去っていく人もいるだろう。
そしたらその人が捨てていった希望の傘を抱きしめなんかせず、放り出して、地面に転がしたくなるに決まってる。
けど、捨てるその前に、一瞬でも思い出してほしいんだ。今まで君に傘を差していてくれた事実を。
そうして忘れる前に、放り出す前に、小さく「今までありがとう」って呟いて欲しいんだ。
君が気付かなかっただけで、きっと君を何度も雨から救ってくれただろうから。
その後は放りだしてもいいよ。忘れるのは大切なことだ。忘れなきゃ生きていけない人だっているんだよ、僕だってその一人さ。
ただ、どうか一つくらいは感謝の言葉を述べてくれ。
今までの君を救ってくれた傘の一本であることに、変わりはないのだから。
もうひとつ素敵なことがあると思うんだ。それをどうか覚えていて。
君も、誰かに希望の傘を差してるっていうこと。
もしかしたら、ずっと近くにいる友人とか、家族とかには自覚的に差しているのかもしれない。友情とか愛情とか、どっかの誰かさんなら「臭い」と言いそうなものの固まりで。
けれど他にも。君が差しているつもりがなくっても。君の行動で傘はたくさん生み出されているんだよ?
何気ない些細な行動、何気ない小さな言葉。どんなに小さくても、誰かを救っているからね。
それがもし絶望にまみれた人だったら、君がくれた小さな傘でも大切に差していることだろう。
それがもし希望の傘に溢れた人だったとしても、君の行動を忘れないでずっと大切に差してくれているはずなんだ。
もしかしたらね、ふとした時に「あの時はありがとう」何て言われるかも。その時は驚くかもしれないけれど、笑いながら「いえいえ」なんて返してあげられたら嬉しいね。
相手が差してくれていた傘に気がついていたとしたら「こっちこそありがとう」何て返して。お互い傘を差し合ってた事実に気がついて笑いあえたらいいね。
けどね、たまにどうしようもない不安が君を襲うと思うんだ。
本当にこれが「希望」なのかなって。希望の傘に差され続けた君は、希望が「日常」と化して、これは本当の「希望」かなんて不安になると思うんだ。
そんな時はちょっとだけ手を伸ばしてみるかもしれない。
そしたら、勿論手のひらや腕を雨が襲う訳で。濡れた腕を見て、君はどう思うのかな。
あぁ、僕がいるここは希望なのか、って安心するかな。すっと腕を傘の中に戻して、ハンカチで拭いながらあぁよかった、って笑うかな。
それとも予想以上の豪雨に驚いて、思わず傘を手放してしまうかな。そしてそのまま絶望に引き込まれちゃうかな。
……そこまでは、僕にはわからない。流石に君がどう感じるかなんて、わからないよ。
手放した希望の傘をすぐに取り戻して差し直し、冷や汗を拭いながらため息をついて欲しいけれど。もし、そのまま絶望に引き込まれてしまうのだとしたら。
希望の傘が何処にあるかすらわからない程、絶望にのまれてしまったのだとしたら。
今まで君に傘を差してくれた人が腕を引っ張ってくれると願いたい。そうしながらどうした、と不安げに聞いてほしい。何してるんだ、と叱咤するかもしれないけれど、怒り返さないであげて。
そのまま自分の傘に引きずり込んで、君が濡れないようにしてくれるだろうから。
もしかしたら茫然とするかもね。お前も傘を差してくれてたのか、とか何でお前が助けてくれるんだ、って感じで。
あぁやっぱりお前が助けてくれるんだな、って安堵出来る関係性も素敵だけれど、茫然とした君はその後に築いていけばいいんじゃないかな。
そしてその後に、たった一言。「ありがとう」なんて返せたら、きっと素敵なことだ。
その言葉に「何だよ急に」と照れくさい表情を浮かべたり、「当たり前だ」なんて小突いてきたり、頷いて頭を撫でてきたり、ただ無言で抱きしめてくれたり。そんな人がいるなら。
君の人生は最高なものなんだ。
……と、ここまで僕の持論を述べた訳だけれど。
君に伝えたいことは幾つかあるよ。
希望の傘を、君が何本持っているかはわからない。たったの一本を大切に抱えているかもしれないし、たくさんの傘を持っているかもしれない。
ただ、どうか。希望の傘をくれた人には最大級の感謝をしてほしい。
そして、ふとした時に。ありがとうなんて、照れくさい言葉も零してほしい。
人間は言葉がなきゃわかりあえない生き物だからね、ぜひそうして欲しいんだ。
だって、ね?
この世界は、何時その人が消えてもおかしくないところなんだ。
消えた後、居なくなった後。傘だけが残されて、ようやく気付く。そんな最後はいやだろう?
出来たらずっと感謝して、自分も感謝の言葉をたくさん述べて、相手にもたくさん伝わって。笑いあえて、居なくなった後は傘を掴んで。
今までありがとうって、その人が残した希望の傘を差しながら静かに泣きたいものね。
これからもよろしくお願いしますなんて、泣きじゃくりながらも笑いたいものね。
後味の悪い最後じゃなくて、お互い後悔のない最後を迎えたいものね。
今まで僕の持論につきあってくれてありがとう。
どうか、貴方に希望の傘がたくさん差されますように。
たくさんは無理でも、一本でいいから、差されますように。
そのうちの一本に、僕の言葉がなれたら嬉しいけれど、そんな大層な言葉は零せてないから難しいと思うんだ。
けど、ふとした時に思い出してもらえたら嬉しいかな。
――「絶望の雨には、希望の傘を。」なんていう、ちっぽけな一つの言葉を。
これからの君の人生に、傘があることを願って。
書き連ねた手を止めようと思うんだ。
付き合ってくれて、ほんとうにありがとう。
今日も明日も明後日も、一カ月後も一年後も数十年後も、これから一生。
君が傘の下で笑えていますように。
ずっとずっと、願っています。
絶望の雨には、希望の傘を。 高戸優 @meroon1226
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