異世界転生って、こんなだっけ!?
海林檎
一章♢異世界へ転生
第1話 転校生
「皆さん、はじめまして〜! 私の名前は
と、教室に入ってきて開口一番そう言った少女がいた。
担任の制止を振り切って、黒板にチョークでカツカツと何かを書き始める。クラスがざわつく中、気にした風もなくクラスメイトに背を向け続ける転校生。
「え、ちょ、ヤバくないあの子……?」
「ヤバい。そーゆー感じの子ってことなんだろうけどさ」
後ろに座っている女子たちがヒソヒソと話し始めるのを聞きながら、私は「うわぁ、関わりたくないタイプだなぁ」なんて考えていた。
名前を書いているだけにしてはいつまでも黒板を占領する転校生──結木に痺れを切らしたのか、担任が眉間を指で揉みながら教室に入ってこようとして、片足を教室に踏み入れ──
「できたぁっ! 転移陣!」
結木の叫びとともに、踏み入れた右足を残して消えた。
どちゃ、っと水っぽい音を立てて、生々しい肉片が教室の床に落ちる。まともに現場を見ていたであろう、斜め前の席の眼鏡委員長が、えぶっと言う声とともに胃の中身を吐き出した。それと同時に、後ろの席の噂話をしていた二人が盛大に悲鳴をあげる。
一体、何が起こったと言うのだろう?
いつも通りの日常が始まろうとしていた教室で、いつもと少し違う始まり方をした教室が、一瞬で別世界になった。
「うわああああああ!!」
「きゃああああああ!!」
教室のあちこちから悲鳴が轟く。
私は、どこか遠いところでそれが起こっているような気分で、ただぼんやりと、その別世界を眺めていた。
「なに、何が起こったの!?」
「おい、窓の外! なんだよこれ!?」
視界に入る窓の外は一面が真っ白で、天気がどうとかそんなレベルじゃないことがわかった。
でも、私は顔をそちらに向けることができない。
黒板に描かれた奇っ怪な文字と、図形と、それを見て満足そうに微笑む結木から、目が離せなかった。
「はいはい! みんなちゅうも〜っく!」
ぱちぱち、と両手を叩いて阿鼻叫喚のクラスを自分に注目させる結木。そんな結木に、ある男子生徒が詰め寄った。
「な、なぁ! これ、もしかして、異世界転移ってやつ!? クラス全員で異世界転移して、異世界を救え!的な」
「うるさい」
早口でまくしたてる男子をちらりと一瞥した結木は、彼の言葉の途中でぱちんと指を鳴らした。
え、という声にならない声を残して、炭酸が抜けるように、彼が消えた。
しゅわっと、泡が消えるように。
ひっ、と悲鳴があがるが、誰かに口を押さえられたのか、それ以降は誰も何も言わない。シンとした教室に、また満足そうに結木が微笑んだ。
「皆さん、はじめまして〜! 私の名前は結木唯! 転校生です!」
はじめに教室に入ってきたときのように、何事もなかったかのように、結木はそう言った。
「そして、みんなを異世界転生させる神様のお使いでもありま〜す!」
シンとしたままの教室に、そんな嘘みたいな自己紹介が続いた。普通ならば、ただの痛い子発言でしかないのだけれど、誰も嘘だとは言わなかった。
誰もが、それが嘘ではないことを悟ったからかもしれない。
彼女は多分、本当に、神の使いなのだ。
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