第247話 ご褒美をあげた。
「正解だ。流石、私が見込んだ勇者たち。
やるではないか」
私がそう告げると、一斉に全員の顔が喜びに輝いた。イリアスやベネディクトですらも顔を
「やったァー!!」
エリックが、
「良かった!」
ゼノが、ホーっと安堵の溜息を漏らし肩を落とした。そんなゼノの肩を、テセウスがハニカミながらパシパシ叩いている。
イリアスは喜ぶエリックを朗らかに見つめており、ベネディクトはベルナに抱きつかれて、その頭を優しく撫でていた。
三者三様の喜び方。
私も嬉しいぞ!!
私のそばに立っていたアレク、ツァニス、ヴラドも同じように、微笑ましい顔で子供たちの事を見下ろしていた。
ご協力ありがとね。
感謝の気持ちを込めて、他の人たちにも視線を送る。みんな、今回の課題の為、いつ子供達に何か聞かれてもいいように、色々な情報を事前に頭に入れてもらった。
みんなの協力なくして、子供たちを真剣に楽しませられなかった。
本当にありがたかった。
子供達は喜びのあまりワキャワキャと騒ぎ始めて静まらない。
その間に、私は協力者三人にお礼を言う。三人は笑顔で頷いて、アレクとヴラドさんは壁際へ、ツァニスはアンドレウ公爵や獅子伯の元へと歩いて行った。
暫くそのまま騒ぐ子供たちを見ていたが。
私はスクリと立ち上がる。
そして子供達をニヤニヤとした顔で見下ろした。
その様子に真っ先に気付いたのはイリアスとベネディクト。
「……はっはっはっ。試練に正解しただけでその喜びよう。
全く、可愛い勇者たちだ」
私がそう呟くと、ちびっ子組の子達がキョトンとした顔で私を仰ぎ見る。
「まぁ、そのまま喜んでいてくれても構わないがな?」
私はニヤリと笑い顎をスルリと撫でた。
その瞬間、子供たちの空気がザワリとする。
「え……もしかして、もう次の試練……?」
ベネディクトが、面倒臭そうに眉根を寄せた。
その言葉に、私はゆるゆると首を横に振る。
「私の試練に打ち勝てたのだ。それ相応の褒美を用意してある」
私がそう笑うと、ゼノとエリックの目がまん丸に。まさに『驚愕』。
「ごほうびっ……?!」
エリックの顔がゆっくりと紅潮していく。
しかし、反してイリアスとベネディクトは、『なぁんだ』と呆れ顔。
「どうせ、美味しいご飯とか何かの勲章とかじゃないの?」
ボソリとイリアスが。
はははは。甘いな二人とも。
私が、そんなつまんない褒美にするワケがなかろう。
君たちは高位貴族の子息子女やぞ? 何不自由なく生活する子たち向けが、『物』のワケがなかろうて。
私はニッコリと笑い、子供たちそれぞれの目を順々に見ていく。
そしてゆっくり口を開いた。
「ここに
相手は誰でも構いません。アンドレウ公爵や夫人──ティナ様にも、レアンドロス様にもOKを貰っています。
遠慮なくお願いして下さい。
ただし、ちゃんと相手にお願いをOKしてもらって下さいね。無理難題はダメですよ」
そう伝えた瞬間、何故か黙る子供たち。
みんな、顔が固まってる。
え。なんで? 嬉しくなかった?
私なら嬉しいんだけどな……
そんな中、エリックが一歩前に出て、信じられない、という顔で私を見上げた。
「だんちょう……それって……それって……ちちうえでもいいのか……?」
口を
「勿論」
そう笑顔で返事すると、エリックはダッシュでアンドレウ公爵の元へと走り寄る。
一人用ソファに優雅に腰掛けていた、アンドレウ公爵の前に出たエリックは、
「ちっ……ちちうえ……」
消え入りそうな小さな声で公爵に話しかける。
エリックの顔が最高潮に赤い。熱でも出したんじゃないかという程。
「だ……」
エリックが声を詰まらせて、それでもなんとか言葉を絞り出す。
公爵が背もたれから体を起こし、前のめりになってエリックの言葉に耳を傾けた。
「だっこ……」
……エリック……お前……そ、そんな事……
アカンっ!! 目から汗が噴き出る!!
「そんな事でいいのか」
苦笑したアンドレウ公爵が腕を伸ばすと、エリックが突撃するように彼の胸に飛び込む。
エリックの体を抱き上げたアンドレウ公爵は、背もたれに背中を預けつつ、エリックの身体を優しく抱き締めて、ゆっくりと背中を撫でた。
「こんなに重くなっていたのだな、エリック」
公爵のそんな愛おしげな声。横のアンドレウ夫人も、その様子をニコニコと眺めていた。
エリックは、公爵の胸に顔を埋めて動かない。しかし、その肩は震えていた。
もうダメ。
直視してられない。
私はハンカチをポケットから取り出して顔に押し当てる。目と鼻から身体中の水分が噴き出してきて止まらない。
「最高のご褒美になったみたいですね」
近くに立っていたサミュエルが、優しげな声でそうポツリと呟いた。
***
他の子たちがお願いは。
ゼノは、獅子伯に『二人で写真を撮りたい』とお願いしていた。獅子伯は喜んですぐに写真屋を手配していた。
実は、二人だけで撮った写真がないそうだ。宝物にしたい、ゼノは照れながらそう言っていた。
その言葉に、ヴラドさんが顔を背けて肩を震わせてたっけね。勿論私も再度貰い泣き。
ベルナは、アンドレウ夫人に『わたしもびじんにして』ってお願いしてた。
ベルナの世話をお願いしてる家人に聞いてみたら、どうやらベルナはここで初めてアンドレウ夫人を見てからというもの、お姫様みたい、お姫様になりたいと、ずっと言っていたそうだ。
アンドレウ夫人は勿論笑顔で
ベネディクトは、その時はまだ誰にもお願いしなかった。
彼に聞いてみたら『思いつかない』との事。
そうだね。ベネディクトは、まだ能動的な欲望を感じにくい状態のままだ。
ゆっくり考えてください、そう伝えておいた。この屋敷にいる間は、権利はいつ使ってもいいですよ、と。
ニコラとテセウスは。
彼らには、それぞれに権利がある。最初にテセウスに聞いてみたら、『ニコラの願いを叶えてくれ』としか言わなかった。
なので、ニコラが出てきたタイミングで尋ねてみたところ。
ニコラは困った笑顔で私を見上げるだけだった。
遠慮なく言ってみてくださいと更に突っ込んで聞いてみたら、ニコラは私から視線を外してあらぬ所を見つめる。指をこね繰り返し、言いにくそうにモジモジしていた。
私はニコラが話し出すまで、彼の顔を見つめながら根気よく待ってみた。
どれぐらい経った頃か。
ニコラがポツリと──
「無理だって分かってるけどね……セレーネ様と……」
なんとかギリギリ聞き取れるかという程小さな声て囁いた。
私は耳を澄ます。
「……一緒に、いたい……」
……。
…………ニコラ!!
「無理じゃないです! 勿論です! 勿論です!! 一緒にいましょう!!!」
私は半ばそう叫び、ニコラの身体をギュッと抱き締めた。
そうだった。テセウスには直接伝えていたけれど、ニコラにはまだちゃんと言ってなかった!!
「私がどうなろうと、ニコラと一緒にいます。私達は一蓮托生です。貴方が私を必要としなくなるまで、ずっと一緒にいますよ」
そうだよね。不安だよね。私が離婚になるかもしれないという、先が不安でしかない事を伝えられたら、そりゃこの先信じられる何かが欲しくなるよね!
「貴方と一緒にいます。一緒にいます。約束します。一緒にいてください」
そう伝えると、ニコラも私の背中に手を回してきてギュッと抱きついてきた。
その手は、震えていた。
ニコラとテセウスのお願いは、これをご褒美として消化してしまうのは勿体ないようなお願いで、そんな難しい事でもなかったけれど。
問題は、アティとイリアスだった。
アティとイリアスがお願いしてきたのも、私。
正確に言うと、アティのお願い対象は私ではない。
セルギオスにだった。
セルギオスに会いたい、セルギオスにお願いしたい、アティは私にそうコッソリ耳打ちしてきた。
……参ったね。どうしようか。
そしてイリアス。
彼のお願いは『私に大人のキスの仕方を直接教えて欲しい』だった。
無理難題過ぎだよソレ……
ちょっと時間ください、と二人にお願いした。
***
「そういう事は、誰かに教えて貰うのではなく、好きな人と少しずつ慣れていくのがいいのではないでしょうか?」
「ならやっぱりセレーネだよ。さぁ、僕にその百戦錬磨のテクを教えて慣らさせてよ」
イリアスが、私に向かってキラキラとした熱視線をひたすら送ってきていた。
百戦錬磨じゃねーよ。人をなんだと思ってんの。
別荘の裏手にあるポーチ、そこのベンチにイリアスと二人で腰掛けつつ、私は眉間を揉みしだいていた。
ランチの後。
ベルナとアティ、ニコラは、アンドレウ夫人の所。早速ベルナを美人にすべく、アンドレウ夫人が娯楽室に持ってきた衣装ケースを全開にさせて、キャッキャとはしゃいでいた。
エリックとゼノは、ベネディクトの『お願い』を考えるべく、三人(※プラス護衛)で屋敷を回り、いろんな人に『何がいいか』とアドバイスを聞いて回っている。
エリックがここぞとばかりに『こういうときは、あにでしにまかせろ!』と鼻の穴を広げていた。
実質、ベネディクトはエリックとゼノの面倒をみてくれている。
ありがたかった。
今日は少し天気が悪い。
雨が降りそうな曇天を見上げながら、私は熱視線を送ってくるイリアスをどう説得しようか頭を捻っていた。
もしかしたら、イリアスは私にお願いしてくるんじゃないかとは思ってたけど。まさかそんなダイレクトアタック繰り出して来るとは思わなくて。
無理難題ですと最初は断ったら。
イリアスの更なる猛攻が繰り広げられた。
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