御褒美タイム
団体戦で勝った後に記者会見があり、それが済むと連れて行かれたのがロイヤル・ハワイアン・ショッピングセンター。
「その格好じゃ拙いな」
ドヒャッて感じのドレスとかを上から下までサッサと見繕い。
「ハレクラニもウルサイところだから、これぐらいは必要だ」
三人分の衣装が整ったところに定宿からミサトの荷物が届けられ、麻吹先生と新田先生は定宿に、ミサトたちはハレクラニに。
「エミ先輩、歩きにくいのですが」
「エミもよ」
ヒールなんて普段履かないものだから、怖々なんてものじゃなかったもの。野川部長も慣れない革靴に苦戦中。
「ハレクラニに泊れるのは嬉しいですが、なんか気後れしてしまいそうです」
「ボクもだよ」
それと三人が心配したのは食事代。部屋代は払ってくれるはずだけど、日本の旅館と違って食事代は別のシステムのはず。パック旅行とかだったらミール・クーポンもあるだろうけど、なんにもなし。野川部長も、
「最悪、外に食べに行こう。ハレクラニでまともに食べたら払えないよ」
フロントでもドキドキしながら、
「野川学、小林エミ、尾崎美里ですが」
予約が入ってなかったらどうしようとドキドキしてたら、
「学生写真の世界チャンピオンに当ホテルを御利用いただき光栄でございます。精一杯のおもてなしをお約束します」
そうやって案内されたのだけど、
「こちらがお客様のお部屋への専用エレベーターになります」
せ、専用ってミサトたちだけが使うってか。どんな部屋なんだよ。
「こちらでございます」
三人とも腰抜かした。広い、むちゃくちゃ広い。ミサトの家より広いと思う。
「こちらがベッド・ルームになります・・・」
ベッドルームも二つで、バスだって二つ、キッチンまであるのだよ。さらにこれまた広々なんてものじゃないバルコニーがあって、前に広がるのは太平洋のはず。暗くて見えないけど波の音は聞こえる。
「学生写真の世界チャンピオンに相応しいお部屋を用意させて頂きました。こちらにウエルカムのシャンパンとパイナップル・ジュース、それとカナッペを用意させて頂いています。なにかあれば専属のバトラーがおりますので、なんなりと御用命くださいませ」
な、なんなんだ、この待遇は。野川部長は明らかにビビりながら、
「この部屋は」
「ロイヤル・スイートでございます」
いくらなんでもやりすぎだろう。部屋に案内してくれた人が去ると入れ替わるようにバトラーって人が現れて、
「滞在中の御用命はなんなりとお申し付け下さい」
野川部長が、
「料金は・・・」
「すべて前払いで頂いております」
エミ先輩も震えながら、
「食事とかは」
「それも承っております。これがお泊り頂いている間の食事予定でございます。もしご希望があればいつでも変更させて頂きます」
バトラーが部屋を出てから三人とも茫然としてた。やっと出た言葉は、
「イイのかな」
「どうも人違いとかでなさそうよ」
「怖~い」
エミ先輩も度胸のある人だし、オフィス加納で平常心を鍛えられているはずだけど、貧乏暮らしが長かった人だから、こういう贅沢には弱いのよね。それはミサトだって野川部長も同じで良さそう。
「今夜はハウス・ウィズアウト・ア・キーってなってるけど」
「えっとえっと、ドレスコードはカジュアルでイイみたい」
恐る恐る行って見ると、デッカイ木が生えてる庭に面したレストラン。それでもって案内されたのは屋外席で、目の前にはステージみたいなものがあってハワイアンやってた。こりゃ、イイよ特等席じゃない。食事が始まってしばらくしてから、司会者みたいな人がステージに現れて、
「レディース・アンド・ジェントルマン・・・」
てな調子でしゃべり始めたのだけど、
「今夜はスペシャル・ゲストにお越し頂いております。学生写真の世界チャンピオン・チームのメンバーです」
えっ、えっ、と思いながら立ち上がり手を振ると、すっごい歓声でビビった。アメリカ人のノリはホントにイイと思った。そこから二日間、ハワイの定番みたいな観光をあれこれやって帰ったんだけど。空港までの送迎なんてリムジンだものね。飛行機だってANAのビジネス。日本への機内で、
「麻吹先生はどれだけ優勝賞品を吹っかけたのだろう」
「あの指って、いくらだったのかな」
夢見心地の御褒美だったけど、関空に着いたら、なんだ、なんだ、あの報道陣は。誰か有名人でも来てるのかと思ったら、
「学生世界一の感想は」
「勝利の原因は」
「プロ契約は」
えらい目に遭った。ミサトたちの勝利はハワイでも大変な扱いで、どこでも『チャンピオン、チャンピオン』って特別扱いにされたけど、どうもそんなものじゃないので良さそう。まさに衝撃のニュースとして世界中を駆け巡ったぐらい。
ミサトたちが勝ったのもそうだけど、勝ち方が圧倒的というか、三大メソドの選り抜きチームを足元にも寄せ付けないのが衝撃を越えて、
『破滅的』
こうまで言われるで良さそう。もうヘロヘロになりながら取材を終わらせ、家に帰ったら死にそうだった。お母ちゃんは、
「お帰り。優勝おめでとう」
ホッとしたのも束の間、
「夏休みも残り少ないから、前期試験もがんばってね」
トドメの衝撃だった。とにかく写真に振り回されて試験対策が出来ていない。ナオミが帰って来てくれてないかな。情報集めなくっちゃ。
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