1000回蘇生記念で精霊様がチート魔法『累乗』をくれた件〜王女を夜這いしたとの濡れ衣を着せられた俺は超級ダンジョンに追放されるが、固有魔法『累乗』で勝手に脱獄して無双する。俺を神話と崇めてももう遅い。
アオピーナ
001 俺は無実だ
「この男です! この男が、昨晩わたくしに夜這いを仕掛けてきたのです!」
カンカンに起こっているドレス姿のご令嬢が、目の前で誰かに何かを言っている。
「冴えない顔も体格も、昨晩の強姦魔に酷似していますわ! 下僕共、この男を捕えなさい!」
黒服を着た野郎が二人、なぜかテーブルに頬杖をついていた俺を拘束する。
「いったっ! 今、肘のあたりがビリってなったよ! ふざけんなよ!」
いやマジで痛い。
そして、どうして俺が両腕を背に回されて頭を床に押さえつけられて美女の前に献上されたのかが分からない。
俺にマゾ癖など無いのだが。
「あなたよ、あなた! いかにも性に飢えている癖に奥手且つ臆病だから恋人の一人や二人も出来ないでいるようなあなたよ!」
「恋人が二人も居たらそれは浮気なのでは……」
「お黙りッ!」
「ぼぐぉッ!?」
無駄に背の高いヒールで顔面を蹴られた。痛い。
その拍子にご令嬢の黒いセクシーなお召し物が見えたが、伸ばすための鼻はとっくにへし折れている。
痛い。
ギルドの他のメンバーも笑っている。その中に、俺をよくいじめてくる奴ら数人も居た。
まるでゴミを見下ろすような目。
低級魔獣をわざと低級魔法でいたぶって愉しむクソ野郎の目。
奴らを睨みつける俺の前に、ご令嬢は腰に手を当てて屈み、そのやたらと大きな胸元を寄せて言った。
「ほぅら、今もあなた、興奮しているのでしょう?」
扇子で口元を隠し、目を細めて色っぽい声でサディストのように言う。
確かに、ピンク色の長い髪に整った目鼻立ち、おまけに良い匂いがしそうで夢が沢山つまった豊満な胸は男のロマンともいえる。
それに、このご令嬢はこの国の王女様なのだ。周りがやけにざわついているのもそのせい。
だからこそ、おかしいのだ。
この万年童貞な俺に、よりにもよって王女様を夜這いするなどといった度胸があると思うか?
「王女様、僭越ながら申し上げますと、その男がとても飢えていたのです」
俺嘲笑うグループにしてこのギルドの団長である金髪イケメンクソ野郎――イネクスが、女を両手に抱えたまま言う。
「昨晩も、奇行を見せておりました。ゆえに、夜半の無防備な王女様の寝床をつい襲ってしまったのでしょう」
今、無防備って口走ったぞ、こいつ。
確信犯だろう。
俺を性欲に飢えた獣扱いしやがって。
常の女といないと気が済まない貴様の方がよっぽど獣だろうに。
――この時点で、この男が固有魔法『変化』を使って俺のフリをして女王様を犯そうとしたのが分かった。
「口添えご苦労。さて、わたくしのような高貴で麗しい第一王女が、いつまでたってもここに居ては目に毒ですから、この辺でお暇するとしましょう。処刑内容は、そうねぇ……超級ダンジョンにでもぶち込んで、強~い魔獣さん方にでも食べられてもらいましょう」
王女がそう言った瞬間、俺の意識は途絶えた。
◇◆◇◆
「……んあ?」
目が覚めて、周りが氷漬けで俺がパンイチであることに気付いた。
「さぶ――っ!? ……く、ない?」
寒くない。
体温は平常のままだ。俺は温度をコントロールする魔法など使えないから、俺が行ったことではないと分かった。
『旅の者よ、聞こえますか』
氷の地面に文字が刻まれた。
ついでに喋った。
さらに、水色の髪をハーフアップに結った美人さんが、その豊満な肢体を真っ白なローブで包んだ状態で降臨なさった。
「旅の者ではなく罪の者(冤罪)ですがなにか」
『あなたはたった今、ちょうど千回目の蘇生を果たしました。つきましては』
「ちょちょちょっと待て文字さん」
『施しの精霊ですがなにか』
「精霊さん、俺死んだの? え? で、なに? 生き返ってんの?」
『左様。転移魔法でここに放り込まれて数分の間に、あなたは九九九回の死を迎えました』
「で、記念すべき千回目の誕生と」
『正確には、蘇生です。わたすぃーが頑張って蘇生させてあげました。褒めて下さい』
キャラがよく分からん。
それにしても、俺は死にまくった果てに死ななくなったのだろうか。
「俺どうなったの?」
『もう蘇生魔法の術式組み過ぎて手が腱鞘炎になって面倒になってきたので、あなたには固有魔法「累乗」を授けました。これにより、「生存」が累乗されたので「超・生存」状態となりました』
「なに『超・生存』って。つまり、俺は強くなったってことかい?」
『まー、そんな感じですかい』
雑っっ。
まあ、とりあえず、早速その『累乗』とやらを使ってみようじゃないか。
「試運転といきますか」
俺はパンイチのまま構えをとり、傍らにあった氷の壁と対峙する。
そして、
「ていやぁ」
拳が壁に当たった。
直後。
視界が真っ白になった。
さらにその直後。
俺は気が付いたら、巨大なクレーターの中に居た。
「え?」
『今の拳で、あなたはこの超級ダンジョン「ニブルヘイム」の一角である「絶対凍死部屋」を滅ぼしてしまいました。因みに、「超・生存」状態の打撃が累乗されたことによる現象です。神話級更新、おめでとうです』
「えぇぇ」
ていやぁ、な一撃でダンジョンの一部を吹っ飛ばしてしまった。
これでいいのだろうか。
まあ、いいのだろう。
「とりあえず、ギルドの奴ら……特にあのイケメンヤリチンクソ野郎に復讐しに行くか」
そのためにも、まずはこのダンジョンをぶっ壊してシャバの空気を吸いに行こう。
あと、王女様にもギャフンと言わせたい。
ついでに、色んな人達に「お強いですね」と崇められたい。そうしたら、こんな俺でも恋人が出来るかも。
「じゃ、そういうことでナビゲートよろしく、精霊さん」
『え、えー、メンドクサイんですが』
「えぇぇ」
そんな気の抜けるようなやり取りをして、ふと地面を強く踏んでみて、
「あ」
巨大なクレーターが盛大にひび割れて、俺と精霊さんはその下に広がっているマグマの池に落ちていってしまうのでした。
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