HSPシリーズ

ワンス

少女の拾ったもの

日記

第1話 表題:知っているもの

昔から、わたしは人が見えないものが見えた。

白い透けた人。黒い人影。何かに怯えるように建物の影にまとわりついて蠢くもの。

良いものかどうかは直感的にわかる。

だから必要最低限、そう言ったものと関わるのはやめてきた。

亡くなってすぐの人は白く透ける。肉体が死んで霊魂だけが残るいわゆる霊体離脱の状態だからだ。


そういった人はみな困惑していることが多い。

多い、と書いたのは霊体だけ残るのは突然の事故だったり病気だったり、そういう突発的に本人の身に何かが起きて、自分の状態をわかっていない人が多いからだ。

中にはかろうじて体と糸が繋がっている人もいる。そういう人は少ないが、体が死ぬ前に戻ることができれば生存率がぐんとあがるのだとここ最近で知った。


だからそういう時。


例えば偶発的な事故でその場に私が居合わせてしまった時。

そんな状態に遭遇してしまった場合のみ、そっと当惑している彼らの背中を押して身体に戻してあげる。

助かった命もあった。


だが、確実な方法ではなかった。

生き残るか、生き残れないかはもう運の世界だった。


何度か同じことを繰り返して、私は悟った。


体に戻したところで肉体が死ねば魂も死ぬ。


そういう状態のことを中国では魂魄というらしい。魂は精神、魄は肉体。どちらかが死ねばどちらとも死ぬ。


それが私、美利 野乃花みとり ののかが知る世界のすべてだ。



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