掌編小説・『雨の日の洗濯』
夢美瑠瑠
掌編小説・『雨の日の洗濯』
(これは去年の「衣類乾燥機の日」にアメブロに投稿したものです)
掌編小説・『雨の日の洗濯』
洗濯物、まだ湿っている洗濯物は雨の匂いがする。
梅雨時のじめじめしたグレーの風景の匂いだ。
紫陽花の青い色、遠くの山稜に見える驟雨の白いカーテン、そんなものを連想する。
私は雨が好きだ。
なんだか気持ちが落ち着くし、しとしと、という篠突く雨の、繊細な水音も好きだ。
大地が潤って植物が喜んでいる、そういう感覚も何だか心が温かくなるみたいで、ほっとする。
恵みの雨、これが生き物たちの命の源だ、つくづくとそういう感覚に浸れるのが雨降りの醍醐味だ。
雨は世界のリセット、ひと時の憩いだと思う。
晴れになるとまた皆活発に動き出して、忙しく世界が回転し始める。
そのために世界全体が今、英気を養っている。雨は決して暗くも悲しくもない。
意識の陰画、無意識の世界、昼の喧騒に対峙する夜の夢に似ている。
それは穏やかで、もっというならすごく芸術的な闇に咲く妖しい花である。
紅茶でも飲みながら、窓ガラスに流れる水滴を見ているのは愉快だ。
水滴は様々にフラクタル?なパターンを描きつつ、離合集散する。
そんな余裕のある時間が本当は一番「生きている」喜びを静かに噛みしめられるのかもしれない。
・・・ベランダに出て、ひさしの下に立ってみる。
ベランダからは墨絵のような風景が、展開している。
暗色が垂れこめた街や森のずっと向こうに、明るい白白した空が広がっている。
「波乱」を「孕ん」で?動いている幻想的な雲を擁している、“天空の城の露払い”のような空だ。
雨の静謐さは、西洋的というよりは東洋的だ。神様の涙、ではなくて、仏様の慈悲だな、とか思う。
・・・やむを得ない事情で雨降りの日に洗濯をしながら、私はつらつらとそんなことを考えていた。
「雨が止んだらカーテンコールのような美しい虹が出てほしいな」
雨に心を洗濯されたからか、純粋な子供のように私は素直にそう願っているのだった。
<了>
掌編小説・『雨の日の洗濯』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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