第13話 柳 ストーリー: 手紙

「良くやった、柳!」


隊長の声が聞こえた。でも柳がそれを答える余裕がなかった。


この化け物をなんとか倒した。まじできつかった、と彼が息を切らして、座った。


巨大の雷鳥だ。こんな大きな雷鳥は、普通の雷鳥の大きさの10倍もある。力も能力も十倍で、それ以上だ、と彼が感じた。


「おまえをこの討伐チームに誘って良かった。強いレベル4がいると聞いたが、その強さならもうレベル5にしても良いんじゃねぇか、と俺は思った」


隊長らしき人が彼の前に立って、うなずいた。しかし柳がまったく彼の話を聞いている様子がなかった。巨大雷鳥を相手にして、相当きつかったようだ。


「まぁ、でも、上の判断のだから、これからもっと頑張れよ。認めてもらうまで必死にがんばれ。俺が応援するよ。もっと凶暴なやつがいっぱいうろちょろしているから、おまえとまた同じチームにしたい、と思っている」


隊長は柳を褒めた。柳はやっと顔を上げて、うなずいた。


「こちらこそ、隊長。感謝しています。ここまで連れて行ってくれて、貴重な経験を得た、と思います」


柳は雷鳥の体から武器を抜いて、鞘に収めた。


「すげぇな。本当、本当に化け物だった。化け物同士の戦いだったぜ」


チームメンバーの誰かがつい本音を口にしてしまったようだ。柳が聞かないふりをしているけれど、隊長はその人に向かって、怒鳴った。


「こら!さっさと周囲のチェックや記録取れ!やることまだたくさんあるんだろうが。まったくだ!」


隊長は再び柳を見て、肩をぽんぽんと叩く。


「気にするな。そういう奴は、たまにいる。自分より低いレベルのおまえに負けて、悔しいと思う奴の言うことなど、気にする必要はない。さぁ、来い!良い物をやろう!」


隊長は息絶えた巨大雷鳥の頭に行って、その目玉を剣で切った。空いてる目玉を手で、その切ったところから中へ突っ込んだ。


「あった!」


手をひねて、何かを引っ張り出した。隊長の手の中に丸い石のような物がある。それを適当にきれいにして近くにある葉っぱで包んで、柳に渡した。


「これは?」

「雷鳥石だ。普通の雷鳥石はとても小さいからあまり価値が高くないけど、大きければ大きいほど、その輝きが違って来るんだ。これはおまえの分だ。受け取れ!」


隊長がそれを柳に渡すと、彼がうなずきながら受け取った。


「ありがとうございます」

「良いさ。まだもう一つの目あるから、それと羽根など、もろもろでチームの分にする」

「はい」


隊長がその他の物を言いながら、他の戦利品を言った。巨大な雷鳥意外にも、他の猛獣もあった。このチームでもうすでに数匹を倒した。


「良い腕の職人のところに行って、磨いてもらいな。かんざしでも、首飾りでも作って好きな女性にあげると喜んでくれるぞ。まぁ、そのまま売っても良い金額になると思うが、好きにするが良い」

「はい」


柳がその石を懐に入れて、うなずいた。


「また縁があれば、一緒にやろう。レベル5になったら俺のチームに入れるよ!」

「努力します。では、失礼します」


隊長は感じが良い男性だ。裏表もなく、まっすぐな人だ。柳は、このような隊長の下でずっと働きたいと思ったことがあるが、チーム内のいざこざに巻き込まれるのが苦手だ。先週、参加したチームで、手柄を立ててしまったことで、恨みを買って、帰り道で襲われた。場違いの喧嘩は当然罰に与えられる罪になる。けれど、目撃者がいたから、正当防衛として認められ、罪に捕らわれないで済んだ。相手を半殺しにしたから、かなり怒られたけれど、仕事終えたばかりの柳は力の加減がうまくできなかった。


本当に面倒なことだ。


だからレベル5になったら、ダルガのように、傭兵でも護衛でもの仕事に就くのも悪くない。ソロで獰猛な怪物狩りも良いかもれない。


そうだ、まだ日が明るいから、けやきのところへ行こう、と柳はそう思いながら懐にある物をぎゅっとにぎった。この雷鳥石の使い道が分かるかもしれない。できればローズに、何かを作って欲しい、と柳は思った。けれど、今はそんな余裕がない。新しい剣を買ったばかりだからな、と柳が苦笑いした。欅の親方が作った剣は質が良いのだけれど、値段は高かった。だから柳の財布は今厳しい状態になった。もっと働かないとダメか、と柳はため息ついた。


「ほう、これは大変めずらしい石だよ、兄さん」


欅がその石を持って、光にかざした。


「そんなに良いのか?」

「うん。削れば、ぴかぴかに光るんだよ。とても美しく、上品な色合いになる」


欅はそう言いながら、石を再び置いた。


「欅は宝石に詳しいな」

「まぁ、僕は宝石で飾り物も作っているからね。これをどうしたいの、兄さん?」

「本当はローズに何かを作ってあげたいけどさ、俺は今お金がないんだ。だからどうしたら良いのか、良い考えがあるのかと、ここに来たわけだ」


柳が正直に言った。そう聞いた欅も考え込んでいる。難しい注文だ。


「そうか、ローズちゃんは今大変だからね。僕も心配で、夜も眠れない時もある。元気してるかどうか、分からない。何の便りもないからね」

「ああ。だからあれで何かを作って、送れば、向こうから便りが来るんじゃないかな、と思ったけどね」

「分かりました。何かを作ろう。期限はいつまで?」

「できれば今月中に作って欲しいんだ。来月の頭に、知り合いがエコリア方面へ仕事に行くからと連絡が来たんだ」


柳がお願いする仕草をしながら言った。


「今月か、結構ぎりぎりだね」


欅が呆れた顔をして、ため息ついた。


「そこはなんとか」

「分かりました。兄さんの頼みだし。それにローズちゃんは僕にとっても大事な妹だから、任せて下さい」

「ありがとう、欅」

「うん。できあがったら兄さんの寮に届けるね」

「ああ、頼む。じゃ、またな」


柳が立ち上がって、手を振った。


「はい、帰りにお気を付けてね」

「ああ」


優しい弟だ、と柳は微笑んだ。欅は柳にとって、ローズ以外に心を許した人だ。ローズがいなくなってから、柳が心の安らぎを失ったかように暗くなってしまった。けれど、欅は柳を理解して、協力的だ。本当に頼もしい弟だ、と柳は思った。





あれから3週間が経った。


相変わらずと、へとへとなった状態で寮に帰ってきたら、寮長が欅からの荷物が届いたと伝えた。手紙も入っている。柳が留守だったから、欅がこの手紙を書いたに違いない、と柳は手紙に目を通した。欅によると、ローズは体が小さいからいろいろと考えた結果、ピンで止めるブローチにしたと書かれている。また雷鳥石の一部を切って、もう一人の妹の百合に髪飾りを作って、柳からの贈り物として百合に渡した、と。


百合はローズが屋敷から追い出されたことで、ダルゴダスと喧嘩して、屋敷を出た。あの恥ずかしがり屋で、泣き虫の百合は、ダルゴダスに異議を唱えたとは正直に言うと、びっくりした、と柳は思った。百合は今、刺繍職人の親方のところで生活している。手紙の下に小さく書かれていたのは残りの宝石は、欅の親方が全部買い取ってくれた、と。それでかかった経費や材料代に、全部それでまかなったという。本当にしっかりしている弟だ。ありがとう、欅!、と柳は手を合わせて、礼を言った。


柳がゆっくりと箱を開けたら、目を疑うほどの物を目にした。それは、とても美しい薔薇の花の形のブローチで、その一つ一つの薔薇の花びらに雷鳥石が埋め込まれている。大変美しかった。大きさは小さめで、体の小さいローズに負担にならないように設計されている。百合の髪飾りもきっと百合の花だろう、と柳は思った。本当に腕が良い職人だ。柳にとって、欅は自慢の弟だ。


ローズに手紙を書こうか、と柳はブローチを見つめながら思った。ローズにそう簡単に手紙を書けと言ったのに、考えてみたら、ローズはまだ読み書きを習ったばかりだ。手紙がうまく書けるかどうか、分からない。モイが教えてくれれば助かるが、こればかりでは、なんとも言えない。


そう考えて、実は柳自身も手紙を書いたことがない。試験回答と報告書以外、他人に送るための文書を出したことがない。


柳はきれいな真っ白な紙の前で一時間も見つめている。こんなにも時間が経ってしまったのに、紙に何も書かれていない状態のままだ。どう書けば良いのか、分からない。


ローズのことを考えれば良いか。あの笑顔、あの笑い声、あの泣き声、あの寝顔。考えれば考えるほど、すべてが愛しく思う。


会いたい。


ローズに会いたい。会いたくて、仕方がない。柳がその紙を触れた。真っ白な紙で、ローズのような存在だ。


妹だから会いたいのか、と彼は思い始めた。彼女をそれ以上の存在として、求めてしまうのか。あの小さな体なのに、思った以上に大きな存在になった。柳にとって、近くにいるだけでどれほど心が安まることか、今まで思いもしなかったことだ。


最後に強く抱きしめたとき、心のどこかがしめられたような痛みを感じる。けれども、ローズは泣かなかった。もし彼女が泣いたら、柳が悲しむだろうと理解しているのかもしれない。まだ1歳の子には、そのようなことはしない。ローズは体が小さいだけだ。しかし、存在そのものが大きい。血の繋がりがまったくないかわいい妹だ。柳がその紙から手を引いて、枕を抱きしめた。愛しい妹だ、と。


遠くへ行ってしまって、失って初めてその存在の大きさに気づいた。彼女が近くにいた時、数ヶ月間会わなくても、平気だったのに、と彼は思った。別れてからたった数週間で、彼はこんなにも壊れてしまいそうだ。1年間会えないことと考えるだけで、どの獰猛な獣の相手よりもずっときついだ。あの笑顔が見たい。あの声が聞きたい。彼が目を閉じて、記憶の中にある彼女を追う。


声か。確かに数週間前、変なことがあった、と彼が思い出した。なかなか寝られなかった夜に、ローズの声が聞こえたような気がした。気のせいだと思ったけれど、ローズのオーラ、そのぬくもりも感じた。一瞬だけど、あれあなんだったのだろう。夢ではない、気のせいでもない。幻覚もない。俺は正常だ、多分、と彼が自分の頭を確認した。


何考えてるんだ。手紙。そう、手紙を書かないといけない、と彼が枕を置いて、ペンを取った。明日、ロッコに渡す予定になっているからだ。



「愛しいローズへ。 

やぁ、元気にしているか?新しい生活に慣れたか?俺、欅、百合、と菫は、相変わらず元気にしている。父上と母上も元気だよ。菫は最近すこしずつ歩けるようになったらしい。ローズが帰ってくる時期にもう走れるかもしれない。百合は屋敷を出て、今は刺繍職人になった。こちらに戻ったら、百合のところへ遊びに行こう。

俺は最近レベル4になった。友達のロッコ、覚えているか?レベル3のときに隣の部屋に住んでいたやつだ。あいつはレベル3からいきなりレベル5になった。すごい奴だ。しかも暗部から声がかかったようだ。彼が演習に、エコリアに行くと教えてくれたから、空いてる時間に、この手紙と荷物を届けに行ってくれるそうだ。

この箱の中身を見たか?あれは俺が頑張って手に入れた雷鳥石でできたブローチだ。欅が作ってくれた。きれいだろう。贈り物として、ローズに受け取って欲しい。気に入ってくれると嬉しい。

ローズ、この前、俺がローズのオーラを感じた。ローズの声が聞こえた。ローズがそばにいないのに、ローズの気配を感じた。夢でも、気のせいでも、幻覚でもない。不思議な体験だった。きっと龍神様は、ローズのことを恋しく思った俺に見せてくれた何かだ。

ローズ、またどこかへ、二人で遊びに行きたい。思いっきり笑っているローズの声が聞きたい。俺はレベル5だったら、今すぐにでも、この手紙を、ローズのところまで自分で届けに行けるのに・・。上の判断でレベル4止まりだった。討伐部隊の隊長は、上は認められるまで頑張れ!、と応援してくれた。だから俺は今一所懸命レベル上げに励んでいる。ローズが帰って来るまでにレベル5になりたい。レベル5になれば、ローズはどこに行っても、会いに行ける。どこへでも連れて行けるよ。だから頑張る。エコリアで頑張っているローズに負けないぐらい、俺は頑張る。

ローズ、手紙はこんなに長くなった。読み疲れたらごめんね。でも本当はまだまだいっぱい書きたいけど、紙がもうない。情けない話だ。書き損じしすぎた。また今度、もっとたくさん紙を用意するから、今回はここまでにする。またな、ローズ。 

柳より」



柳はその手紙を封筒に入れて箱の中に入れて、封した。そして近くにある枕を強く抱き、絨毯の上に転がる。


一つ一つとローズのことを思いながら、いつの間にか眠りについた。夢の中で会えると強く願いながら・・。

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