第3話 行き先と嫉妬

「アリアはどこに行きたい?」


夜になり寝る準備を済ませた後、新婚旅行について話し合うことになった。

旅行をするのは一ヶ月後。三泊四日の旅になるそうだ。レオンスが急遽決めたことであるにも関わらず冷静に対処してくれたレナールには感謝しかない。同時に申し訳ない気持ちもあるので今度褒美をあげたいくらいだ。


「レオはどこに行きたいの?」

「アリアと一緒ならどこでも良いが……海に行くのはありだな」

「どうして海なの?」

「アリアの水着姿が見たいからに決まってるだろ」


爽やかな笑顔で返されて言葉を失う。

もっと特別な理由があると思ったのに私の水着姿が理由とは。小さく息を吐いた。にこりと微笑み「海に行っても水着は着ないわよ」と返す。不特定多数に水着姿を見せるのは嫌なのだ。途端に海じゃなくても良いかと落ち込むレオンスに苦笑する。


「私は海に行きたいわ」

「どうしてだ?」

「エクレール公爵領に行きたいからよ」


エクレール公爵家が保有する領地は帝国内に三ヶ所ある。その一つが港町なのだ。

他の二ヶ所は訪ねたことがあるけど港町があるところは機会がなくて行ったことがない。

その説明をするとレオンスは「良いな」と納得の表情を見せた。


「公爵領なら個人の浜辺もあるはず」

「水着は着ないってば」


期待に満ちた笑顔を向けられるので言われる前に返す。残念だと言いながら肩に寄りかかってくるレオンス。ぐりぐりと額を押し付けられると痛みと擽ったさに身を捩った。小さな声で「アリアの水着姿が見たい」と繰り返し言ってくる彼に頰が引き攣る。そこまでして見たがるようなものじゃない。


「海に行きたいのならお一人でどうぞ」

「アリアとの新婚旅行なのに一人で行動するのは寂しいだろう」

「じゃあ、水着は我慢してね」

「仕方ない。今回は諦めよう」


毎回諦めて欲しいのだけど。むしろ二度と着せようとしないでもらいたいところだ。


「他に要望はあるか?」

「領地についてお母様に聞いてからでも良い?」

「分かった」


明日は二週間ぶりに母に会うのだ。城勤めの父とはよく顔を合わせているがお茶会の参加で忙しい母に会うのは難しい。まだ領地にいる兄に会う方がよっぽど難しいけど。どうやら彼は一ヶ月後にこちらに戻ってくるらしいので会う回数が多くなるだろう。


「ねぇ、レオ」

「どうした?」

「ジェイドお兄様はどうしてこちらに戻ってくるの?」


仕事と聞かれているけど詳しいことは話してもらっていない。レオンスは「まだ秘密だ」と笑った。

なにか私を驚かせようとしているのだろうか。

よく分からないが兄が戻ってきたら話を聞かせてもらおう。特にリシュエンヌと関係の変化はあったか聞かせてもらいたい。

手紙で聞いても教えてくれないのよね。

リシュエンヌから色々筒抜けだけど兄の気持ちを知りたいのだ。


「ジェイドと言ったらリシューに振り回されているらしいな」

「そう…ね?」


あれ?今リシューと言った?

レオンスはリシュエンヌを愛称で呼ぶ仲なのだろうかと考えたところで彼らが親類であることを思い出す。しかし親類であっても仲良くなるかは別問題。

愛称呼びってことは仲が良いのかしら。

二人が仲良しと想像したら胸が痛くなった。


「レオってリシュー様と仲が良いのですか?」

「幼馴染だからな。子供の頃はジェイドとリシューと遊んでいた」


三人は幼馴染で仲良し。

同じ国の生まれで歳もさほど離れていない。身分的にも釣り合っているのだから仲良しでも不思議じゃないのだけどリシュエンヌは私の知らないレオンスを知っているのだろう。

羨ましいと思った。

もしかして嫉妬しているのかしら。

彼女は兄と婚約しているし、お互いにベタ惚れ状態。私とレオンスは結婚しているのだから不安に思うことはないのだけど嫌な気持ちを制御出来ない。

レオンスが兄に嫉妬した気持ちが今分かった気がする。


「レオ、今度三人の思い出話を聞かせてください」

「勿論良いぞ」


思い出の中に入ることは出来ないけど共有するくらいはしても良いだろう。

複雑な気持ちはお酒で流した。

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