第41話 朝帰り
リシュエンヌは朝まで離してくれなかった。
それにしても兄との話を夜通し聞かされるとは思わなかったわ。
最初は楽しそうに惚気ていたリシュエンヌだったお酒が進むうちに愚痴を吐き出していた。聞き手から見ると愚痴すら一種の惚気な気がしたけど。
「朝帰りとはお兄ちゃん感心しないなぁ」
眠い目を擦りながらエクレール公爵邸に帰宅すると兄が出迎えてくれた。どこに泊まるか事前に伝えておいたし、へらへら笑っているあたり怒っているわけじゃなさそうだ。ただ寝不足なのでこの出迎え方は少しだけ苛つく。
「リシュー様から伝言を預かってますよ」
「え?」
「今度会ったらお仕置きね、だそうです」
にこりと笑いながら伝えると顔を青褪めさせる兄。仕事だったから会えなかったのは仕方ないと思うけど庇ってあげるつもりはない。
「昨日は仕方なかったんだ…」
「だからなんですか?」
私に言い訳しても仕方のないことですよ。
それにリシュエンヌ達のことですから説教の後は甘ったるい時間を過ごすのだろう。全くもって羨ましい限りだ。眠いのでさっさと自室に帰ろうとするのに兄に道を塞がれた。
文句を言おうと見上げると「顔怖いぞ」と言われてしまう。人相が悪くなっている自覚はあるけど眠いのだから仕方ない。
「眠いせいです。退いてください」
「彼女、他に何か言ってなかった?」
「お兄様の愚痴はたくさん聞きましたよ」
仕事ばかりで全然会ってくれないと何度言われたか分からない。裏を返せばたくさん会いたいということだ。そう思うと非常に愛らしく感じる。
私の返答に兄は「ぐ、愚痴って…」と引き攣った表情を見せた。自分の愚痴を吐かれていると思っていなかったのだろう。
「お兄様はもっとリシュー様の気持ちを考えた方がよろしいかと」
リシュエンヌの愚痴の中には「あの馬鹿キスもしてくれないのよ!大事にされているのは嬉しいけど触って欲しいの!」という生々しいものもあったのだ。
どう返したら良いのか分からず思いつくまま「自分からされてはいかがですか?」と返してしまった。
私の答えに満足したのかリシュエンヌは今度実行してみると意気込んでいたけど変に焚きつけてしまった気がする。
「気持ちを考える?僕、彼女に愛想尽かされているの?」
「今のままだとそうなるかもしれませんね」
それはないと思うけどちょっとした嫌がらせとリシュエンヌに愚痴を溜め込ませている兄に対する私なりのお仕置きだ。
兄は彼女に甘えている自覚を持った方が良いのでこれで正解だろう。
「別れたくないよ…」
「私に言わないでくださいよ。ご自身でリシュー様とお話しください」
「今日のアリア、僕に冷たくない?」
真顔で言わないでほしい。欠伸を噛み殺し「眠いからです」と答える。昨日の朝から一睡もしていないのだ。そろそろ限界が近い。
ワンピースの袖を掴む兄の手を振り払う。
「今から一緒にリシューのところに行こう!」
「リシュー様は先ほど眠ったばかりですよ」
彼女は私が出る直前に寝落ちていたのでお昼過ぎまでは眠っているだろう。
ブリュイヤール侯爵邸で眠らせてもらう選択もあったが今日はレオンスと晩御飯を一緒に食べる約束をしている。向こうでは準備が出来ないので帰って来たのだ。
「徹夜で僕の愚痴を言っていたの?」
「眠いので失礼しますね」
兄の横を通り過ぎて自室に向かう。後ろから「アリア、待ってくれ!」という叫び声が聞こえた気がするけど眠いので戻るつもりはなかった。
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