第39話 兄の婚約者②
「アリアちゃん、どこに行く?」
毎日来ているのだ。回りたいと思っていた露店はある程度回ることが出来たと思うのでここはリシュエンヌに合わせるのが良いだろう。
「リシュー様の行きたいところに行きましょう」
「あら、良いの?花祭り初めてでしょ、遠慮しなくて良いのよ」
「私は毎日来ているので」
どこでも良いですよ。
その言葉を続けることは出来なかった。後ろから凄まじい殺気を感じたのだ。私が気がつくことにリシュエンヌが気付かないわけがない。
目を細めて私の背後を睨みつけていた。
「楽しい雰囲気を壊そうとするのって本当にどうかと思うわ」
「申し訳ありません、私のせいですね」
「あら、アリアちゃんが悪いわけないじゃない」
明らかに私を狙った暗殺者だ。殺気を隠し切れていないあたり手練れではないのだろう。ただ毎日のように命を狙われるのは勘弁して欲しいところだ。
「晒し上げたら良い見世物になるかしら」
「誰も望まないと思いますよ」
「それもそうね」
ここに来ている人達の目当ては花祭りであって暗殺者はお呼びではない。
「あれは護衛に任せて私達はのんびり回りましょうね」
リシュエンヌは近くに待機していた護衛に指示を出すと私の腕を持って歩き始める。侯爵家の護衛だ、問題なく片付けてくれるだろう。
「アリアちゃん、よく狙われるの?」
「一時は落ち着いていたのですけど最近は出掛けると毎回ですね」
「大変ね」
皇帝の婚約者。
その立場をほしがる貴族は多いから仕方ない。が、そろそろ諦めてくれても良いのではないかと思う。
「アリアちゃんの場合は相手が相手だからね」
「リシュー様も狙われるのでは?」
「うん?私を狙おうするお馬鹿さんがまだいるとは思わないわ」
どうやら聞く必要のない質問みたいだ。リシュエンヌの武勇伝は色々と聞かせてもらっていたが脚色されているのだろうと考えていた。ただ今の彼女の笑顔を見る限りだと武勇伝は全て本当のことなのだろう。
「アリアちゃんは帝国に来たばかりだから狙われやすいのよ」
「そうですね。弱いと思われているのでしょう」
本気を披露する場は滅多にない。私の強さを知ってもらう場があれば命を狙おうとする面倒な客も減るのだろうけどなかなか難しい話である。私が本気を出す前にレオンスが片付けてしまうから。
「アリアちゃんを弱いと思っている子達はそのうち痛い目に遭いそうね」
「どうでしょうね」
喧嘩を売ってくる人は痛い目に遭うでしょうけど大人しくしている人を吊し上げるほど私は酷い人間ではない。
ぼんやりと考えている間に護衛一人が本日の暗殺者を捕まえてくれた。
「捕まりましたね。では、花祭りを楽しみましょう」
リシュエンヌに笑いかけると苦笑いで返される。
「この状況に動じないあたり貴女は大物ね」
今さら暗殺者に狙われたくらいで動じたりするわけがない。リシュエンヌも分かっているはずなのに。よく分からないけど褒められたので「ありがとうございます?」とお礼を言ってみた。
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