第31話 生きる
【小百合視点】
小百合は誠に近づき、誠の短剣を奪う。
死のうと思った。
やっと死ねると思った。
これでパパとママに会える、そう思えば死ぬのは怖くなかった。
しかし、自分の首を斬ろうとした時、その男の声が聞こえた。
生きろ…無様でもいい…幸せになれ…
ふと、倒れている男に目を向ける。
その男は既に意識を失っていた。
このまま放っておけばこの男は死ぬ。
だけど、これから私も死ぬ。
だから関係ない。
それなのに、なぜかその瞳から涙が零れ落ちる。
言葉も感情も失った、涙ももう枯れ果てた。
そう思っていた。
しかし涙が止まらない…
そこに倒れている男は全く知らない男だ。
だけど、自分を守るために死んだ父親と被ってしまった。
父は死ぬときに私にいった。
「お前だけは生きてくれ、幸せになれ…」と
この男も父と同じ事を私に言った…
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ私に生きろと?なぜ私に幸せになれと?
私一人に何ができるというの?
でもあの時と違う…
今は一人じゃない…
少なくともまだこの男は生きている…
パパは…生きている!!
助けなきゃ!パパを助けなきゃ!
死んでいる場合じゃない!
すると、小百合に変化が…
小百合の目に精気が戻り、感情の色が浮かぶ。
「パパ!待ってて!すぐに薬を買ってくる!!」
小百合は誠の懐にあるお金を取ると、母屋から駆け足で出て行った。
小百合は走った。
周りから、怪訝な目を向けられながらも走った。
みすぼらしい恰好をした、首輪をつけた小さな女の子。
だがしかし、その女の子の目は真剣だった。
必死に見えた。
そして一軒の店を見つけた。
「すいません!パパが…パパが倒れちゃったんです!薬を下さい。」
一人の優しそうな老婆の鬼が出て来た。
「どうしたんじゃ?」
その老婆は小百合に声を返す。
小百合はその老婆の角を見て一瞬固まった。
まだ鬼に対するトラウマは消えていない。
しかし、父への思いはトラウマを乗り越える。
「わからないの!突然パパが倒れたの!だから薬を売って下さい。」
老婆は状況を察した。
しかし、なんの病気で倒れたのかわからないのでは、どの薬が効くのかわからない。
そしてあいにく、現在この店に置いてある薬は少なかった。
しかしその必死な娘の姿を見て、とりあえず今ある薬の中でどんな病気にも効果がある薬を選ぶ。
その薬は自然治癒能力を高める薬だった。
故に特効薬ではなく、ただ回復を早めるといったもの。
「お嬢ちゃん、これを飲ませなさい。後、精のつく食べ物を食べさせるのじゃ。そうすればよくなるだろう」
症状もわからないことから、ただの気休めに近い言葉だった。
しかし、何も知らない小百合は喜んだ。
「ありがとう!お金はいくらですか?」
「お金はいいんじゃよ、さぁ早く行きなさい。父親が治ったら払いにくればいいじゃ。」
「えっと…じゃあパパが治ったら絶対来ます。」
そういうと小百合は食べ物を売っている店を探しにいく。
何度も…何度も転びながらも必死で走り、そして食材を手に入れた。
体中擦り傷だらけ、そして服は泥だらけ…でも関係ない。
急がないとパパが死んじゃう。
小百合は必死で誠のところまで走って戻る。
小百合は母屋に着くと、すぐに誠に駆け寄った。
まだ息はある…そして額に手をのせると…
「熱い!冷やさなきゃ!」
小百合は井戸から水を掬い上げ、水でタオルを冷やして誠の額にのせる。
すると、苦しそうな誠の表情がやわらんだ。
「パパ!すぐご飯作るね。だから待ってて…」
小百合はすぐに食事の支度をした。
料理はほとんどやったことないが、母親の手伝いで少しはできる。
鍋に水を入れると、火をつけ、買ってきた具材を入れて煮込んだ。
しばらくすると、母屋の中にいい匂いが広がっていくのだった。
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