朝活短編集2021
末野みのり
第1話 2/5 みたらし団子の日
お題「みたらし団子の日」
所要時間 6:03-6:35
(ネタ出し)
時代もの
幼なじみ
子どものころ、一本のみたらし団子を分け合う
大人になっても片方の好物、片方は貧しい昔を思い出すからとあまり食べない
(「見たくもない」とさえ言う)
けんかで、好物に思っていたけれど、それは思い出あるからだと気づく
謝りにいこう、と決意したところで、もう片方がみたらし団子を持って謝りにくる
この設定だと兄弟の方がいい?
兄弟なら現代の設定で
父子か母子家庭で、夜遅くまで接待や夜の商売、アルコール依存症で飲んだくれていた親が、酔っ払って土産にたまに買ってくるちょっと固くなったみたらし団子
親が亡くなり、兄弟は別々の里親に引き取られる
視点のメインはみたらし団子が嫌いな方
十数年ぶりに会うことになり、なにか手土産を……と思ったけれど、思い出すのはみたらし団子のことばかりで、結局みたらし団子に
好きなままだった方は下の兄弟で「兄ちゃん(姉ちゃん)、いっつも少し多くくれて、うれしかったよ」
といった、本人は忘れていた話をされる
***
(起)
子どものころ、鬼が持って帰るきびだんごがあった。
本当の鬼ではない。酔って帰った、父親のことだ。きびだんごは、駅前の小さな団子屋のみたらし団子。 売れ残りなのだろう。とろけるはずのタレは乾き、団子は子どもが食べるにはなんどもなんどもかまねばならないほど固かった。
「にーちゃ、にーちゃあ、おだんご、おいしいねえ」
本来なら幼稚園に通っているはずの年頃だった弟は、みたらし団子をおいしそうに食べていた。その頃のおれは、ちっぽけな手で団子を串から引き抜いてやることしかできない子どもだった。
いまなら、十本だって、百本だって、買ってやるのに。
そんなことを思い出しながら、故郷の駅へと降り立った。
もう、駅前の団子屋はなくなっていた。
(承)
弟から連絡があったのは、夏のことだった。
夏は、弟の誕生日である。自分の年から数えれば、今年成人を迎えたのだとわかって、なんとなくその連絡の意味を理解した。
あのみたらし団子を食べているころ、母はすでになく、父も最後のみたらし団子と一緒に、自分の死を玄関に置いた。あれだけ酒を飲んでいればそうなる。
俺と弟は、別の里親に引きとられることになった。
(転)
待ち合わせ場所は、昔からある喫茶店だった。
昔は、ショーケースを眺めることしか出来なかった、あの当時にすれば最高級で最先端の、今や手ごろな価格のレトロな喫茶店。
「あの」
声を掛けられ、びくり、と背中が揺れる。
十何年ぶりに会った弟は、
「お兄ちゃん……って、呼んでもいいですか」
「いや、まあ……うん。兄だし、いちおう」
「一応って」
笑い交じりの声は、ごく普通の今どきの若者のものだ。俺も一応は今どきの若者なのだが、兄弟でもなければ、そういうタイプの人間とはあまり近づかないタイプである。
(結)
「俺、あんまりいい兄ちゃんじゃなかったろ」
自分でも自覚がある。貧しさと、父親への恐怖で、弟を労わってやる余裕がなかった。
当時小学生だったとは言え、である。同僚が自分の子どもの動画など見せてくるようになって、その中にいるあまりにしっかりした子どもの姿に、小学生でももっと出来るはずだった、と後悔することも少なくない。
「おれ、あんまり子どもの頃のこと覚えてないんだよね。でも、兄ちゃんがおれに、だんごを少し多くくれたのがすっごい嬉しかったのは覚えてるよ」
「えっ」
そんなこと覚えがない。
覚えているのは、団子を串から抜くことばかり。そのネトネトした感覚がなんだか惨めで、俺はすっかりみたらし団子が嫌いになった。
「……ただ単に噛むの疲れたからとかだったかも」
「それでも、おやつとか、団子ぐらいしか食べれなかったじゃん? おれは嬉しかったよ」
嬉しかったよ。もう一度言った弟の顔が、嘘など言っていない顔で、俺はもう、そうか、と返すことしかできなかった。
あの頃の弟に、嬉しかったという気持ちが残っていたなら、それだけでいいと思った。
あの頃の俺、聞こえているか。嬉しかったみたいだぞ。
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