誰そ彼時の友人
亜月 氷空
誰そ彼時の友人
私は、邪魅。人を不幸に、する妖怪。
この世には、たくさんの妖怪たちがいる。それは悪さをするものもいれば良いことをするものもいるが、多くの人間にとってはほとんど縁のないもの。それでも彼らはひっそりと、確かにそこに存在している。
そして、妖怪というのは、皆何かしらの「ルール」を持っている。たとえば鎌鼬なら「常に三人兄弟で、長男が人を倒して次男が切りつけ、三男が傷口に薬を塗る」、座敷童なら「人の家に住み着いていたずらをし、もてなされれば幸運を、追い出されれば不運をもたらす」、といったふうに。そうして人に祓われない程度に存在を主張し、なんとなくおそろしいと思わせ、人々に「畏れ」を抱かせる。
私の「ルール」は、「負の感情を持った人間に憑き、運気を下げる」こと。正確には、人間に憑き、その人間から運気をもらうことで生きている。つまりは人間でいう食事と一緒だ。どの妖怪でも同じだが、負の感情の強い人間ほど取り入りやすいので、基本的にはそんな人間が標的だ。
当然、憑いた人間には不幸が訪れる。といっても私は妖怪の中では力の弱い方だし、少しずつしか運気をもらわないようにしているから、不幸といっても軽いけがや風邪が長引く程度だ。それでも、人間にとって自分の運気を吸われるというのは決して歓迎されたことではない。一部の「見える」人間たちからは常に疎まれ、敵意を向けられてきた。ついさっきもうっかり見える人間、しかも陰陽師みたいな者に見つかってしまい、危うく祓われかけて少し怪我を負ってしまった。
本当は、私は人間と仲良くしたいのだ。
不幸になんてさせたくないし、「見える」人間とならなおさら会話をしてみたい。人間たちのつくる、ともだち、とかいうものを、私もつくってみたい。私は生まれた時から、独りだったから。
とはいえ、それが叶わぬ望みなのは分かっている。憑かれたら不幸になる妖怪となんて、仲良くしたいわけがない。というか、そもそも私は言葉が話せないんだった。向こうの言うことは分かっても、こっちがしゃべれないんじゃ会話が成り立たない。
上級妖怪なら人語を操れるらしいけど、頑張って覚えてみたひらがなとかいうやつを使ってみたいな、なんてありもしないことを想像し、自嘲して笑う。
そんな、旬も終わりに近づいた、鬼灯のような太陽の色が辺りを包む、逢魔が時。
私は一人の不思議な少年に出会った。
その少年には、負の感情が全く見えなかった。
人間は誰もが、その大きさに差はあるものの、負の感情を持っている。そういう生き物だと思っていた。どんなに能天気な奴でも、心のどこかに悩みや妬み、憎しみがあるものだ。事実今まで百年以上生きてきて、持っていない人間なんて見たことがなかった。
それがこの人間はどういうことだろう。その感情が見当たらない。感情が欠如しているのか、何か特異体質でもあるのかはわからないが、なんにせよ普通ではない。
多少の興味はあったが、負の感情がなければ憑くことは難しいため、向こうにこちらが見えていなければ何をしても意味がない。珍しい人間もいたものだ、それでその出会いは終わるはずだった。
「ねえ、君、ひとりなの?」
なにやらこっちに向かって話しかけてきた。私の後ろに誰かいるのだろうか。思わず後ろを振り向く。
「君だってば!……って、どうしたの!? その怪我! 手当てしてあげるから、うちにおいでよ」
私か、私なのか!? つまりこの少年は私が見えて、ええと怪我は、少年についていったら不幸が、あれ、憑けないけどどうなるんだ? というか今、私初めて人間に話しかけてもらえてる!? ああもう、いろいろわからなくなってきた。きっと外から見たらすごく挙動不審だ。
とりあえず、ついていかない方がいい気がする。ええと、こういうときは……。
私は近くにあった小枝を持つと、地面に覚えたてのひらがなを書く。
『だめ』
「だめって……。僕なら大丈夫だから! あ、そうだ!」
少年はぱっと顔を上げてこちらを見ると、満面の笑みで言った。
「僕と、友達になってよ」
ともだち。
焦がれていたその響きに、気付くと私はうなずいていた。
「やった! 僕は翔太っていうんだ。君は?」
しょうた、か。そしてこれは、私の名前を訊いているのだろうか。
『じゃみ』
「じゃみかー。面白い名前だね。ね、じゃみは妖怪?」
その問いにこくりとうなずく。
『ひと つく うんき もらう』
「ふーん、そっか。今は誰かに憑いてるの?」
こんどはふるふると首を横に振る。
「ねえやっぱさ、うちおいでよ。怪我も治せるし、僕の運気もらっていいからさ。僕、君ともっと仲良くなりたいな」
何を言い出すのだろう。この少年は。私が運気をもらったら、不幸になってしまうのが伝わっていないのだろうか。
『わたし つく ふこう』
「あはは、うん、わかってる」
じゃあ、なんで? 訳が分からず首をかしげると、翔太は首から下げていたペンダントのようなものを取り出して私の方に差し出した。
「これ、ちっちゃい頃に友達になったぬらりひょんのじいちゃんにもらったんだ。運気を上げるお守り石、とか言ってたかな。だから僕、運気はすごくあるんだ。だからね、大丈夫」
それは確かに不思議な石で、なにやらすごい力が込められているようだった。ぬらりひょんといえば、魑魅魍魎を統べる妖怪の総大将であることで有名である。これがその力というものだろうか。私のような下級の妖怪にはさっぱりわからないが、さすがといったところなのだろう。
翔太がにっと歯を見せながら笑う。それにつられて、私も自然と頬が緩んだ。
「それじゃ、改めてよろしくね、じゃみ」
差し出された翔太の右手の意味が分からず首をかしげていると、翔太はしばらくきょとんとした後いきなり噴き出した。わかんなかったかー、なんて言いながら声をあげて笑い続けている。……なんだか失礼だな。
「ごめんごめん、ちょっと面白かったからつい……っはは」
少しむすっとしていると、翔太はまだ笑いながら、私の右手をとるとぎゅっと握った。
「これ、握手、したかったんだよ。まあ挨拶みたいなもんかな。これからよろしく、って意味」
そうか、握手か。……いいものだな。なんだか心がほっこりする。
握られている手を私も強く握り返す。
この日の出会いは、私の人生を変えるには十分すぎる出来事となった。
「ね、じゃみ! 今日はさ、動物園とか行ってみない?」
あれからもうすぐ二か月が経つ。翔太は、しょうがっこうとやらが休みの日には、必ずと言っていいほど私と遊んでくれていた。場所は大体公園か翔太の家だ。運気はというと、不思議なことに、定期的に翔太にぴとっとくっつくと、それだけで私の渇きは満たされていた。すごいことに、翔太にこれといった不幸は未だ降りかかっていない。ぬらりひょんの力の強大さには驚かされる。
今日は趣向を変えてか、どうぶつえんというところに行くらしい。
「動物がいっぱいいるんだよ。ゾウとか、キリンとか、パンダとか!」
よくわからないが、なにやら楽しそうだ。翔太と行くなら、どこだって楽しいに違いない。
最初は、こんな私が敵意以外の感情を向けられていることに戸惑いを隠せなかった。それでも翔太がいつも笑うから、気づけば私も笑顔になっていった。今では翔太といるのが楽しくてしょうがない。
着いてみると、動物園というのはとても広く、実に様々な種類の生き物がいた。
「おー、さすがに広いねー、動物園。あっ、あっちパンダいる!」
翔太がそちらのほうに向かって走っていく。あの白黒の大きな生物はぱんだというらしい。
「じゃみも、ほら! こっちこっち!」
振り返って手を振る翔太に、今行く、と少し笑ってそちらに向かう。
その瞬間、聞こえてきた会話に私は、思わず足を止めた。
「ねえあの子、誰と喋ってるのかな?」
「こら、だめよ、指さしちゃ。でも一人で動物園なんて、親御さんはどこへいったのかしら」
――そう、だった。周りの人に、私は見えていない。翔太は今、「一人で動物園に来て何もない場所に向かって話しながらはしゃぐ少年」だ。そんなの……。
「じゃみー? どうしたの?」
翔太が私を呼ぶ。その後ろにうごめくものを見て、私は今度こそ足がすくんで動けなくなってしまった。
その場から動かない私を見て、翔太が心配そうにこちらに近づいてくる。
だめ、だ。こっちに来るな! いくら首を振っても、翔太は不思議そうにするだけで歩みは止めない。私は弾かれたようにその場から逃げ出した。そのまま全速力で走る。
――翔太の後ろにあったもの。間違いない、あれは負の感情だ。しかも、相当濃い。なんで? 今まで見えなかったのに。
後ろから翔太が追いかけてきているのが分かるが、今止まることはできない。あんなに濃い感情なんて、見たことがない。これ以上一緒にいたらどうなるか分からない。怖い、と思った。
がむしゃらに進んでいると、いつの間にか翔太の声は聞こえなくなっていた。どうやら撒いたらしい。いきなり逃げ出すなんて悪いことをしてしまった。
とりあえずこれからのことを考えようと、近くにあった公園に入る。
しかし、あれはどういうことなのだろう。翔太に何が起きたのかは分からないが、あのまま放っておいたら危険な気がする。
「あれ、邪魅じゃないか。こんなところで昼間から何やってんだい」
どうしたものかと思案していると、足元の方から声がした。下を見ると、美しい毛並みの黒猫が一匹。
猫?
「おいおい、俺のこと忘れたのか?」
よく見るとその猫は、しっぽの先が二つに分かれていた。もしかして、
「今は昼間だからただの猫だがな、猫又の久吉猫様を忘れてもらっちゃあ困るな」
どうだと言わんばかりの顔でしっぽを立ててこちらを見ているその猫は、昔からこのあたりに住んでいる猫又だった。地域の妖怪の相談役や情報屋になっており、私も何度か相談を受けてもらったことがある。
そうだ、久吉猫さんなら。
私は久吉猫さんに、ここ二カ月で起こった出来事の一部始終を説明した。負の感情の見えない不思議な少年から運気をもらっていたこと、今さっき突然見えたあまりにも濃い負の感情に思わず逃げてきてしまったこと、このままだと彼が危険かもしれないこと。たどたどしい説明にも久吉猫さんは親身になって聞いてくれた。
「話は大体わかった。だけどよ、そいつはどうしてお前さんが憑いていて平気だったんだ?」
なんとか説明しきると、久吉猫さんはこんなことを聞いてきた。
正確には憑いてはいないのだが、そういえばぬらりひょんにもらったお守り石、とかって言ってたな。
「ぬらりひょん、だって!?」
それがどうかしたのだろうか。あの石の力は本物だった。
久吉猫さんはというと、青ざめた顔をしながらなにやらぶつぶつと唱えている。状況がつかめずおそるおそる顔を覗き込むと、こちらの様子を察したのか妙に改まった顔つきで話し始めた。
「あのな、ぬらりひょんの総大将はな、死んだよ。俺もついさっき知ったんだが、まああのじいさんもずいぶん長いこと生きてたからなあ。ちょっと前から息子が家業を継いで隠居してたはずだが、お前さんの言う少年は、あのじいさんからお守り石をもらったんだろ? 仮に今まで負の感情が見えなかったのもぬらりひょんの力だとすると、効力が切れていたっておかしくない」
だとすると、やっぱり。
「ああ、今頃は運気も下がって負の感情もすごいだろうな。夕方を過ぎりゃ妖怪たちの格好の餌食だ」
だったら、すぐに助けに行かなきゃ。
「おい、どこへ行くつもりだ?」
今来た方角に戻ろうとすると、久吉猫さんから制止の声がかかった。どこへって、それは翔太を探しに……。
「悪いこたあ言わねえ、やめとけ」
どう、して?
「んな泣きそうな顔されてもなあ……。あのな、俺たちは妖怪。そいつは人間。それはわかるな?」
それくらいはわかる。だからどうしたというのだ。
「妖怪は妖怪の領分ってもんがある。本来なら、人間に必要以上に干渉することはルール違反なんだよ」
でも、翔太は私の友達だ。友達は助けるものだ。違う、のか?
それに、ぬらりひょんだってお守り石で翔太に干渉しているではないか。
「あのじいさんはルール無視の奔放なこといろいろしてたからなあ……。お前さんの言い分もわかる。わかるんだが、俺は行かないほうがいいと思ってる。それに第一、お前さんが行って何になる? 何か策があるのか?」
……確かに、私の力じゃ何もできないかもしれない。それでも、このまま何もせず、翔太を危険にさらしたまま放っておくよりはいい。策なら一つ、ないわけではない。私はそう決意を固めると、まっすぐに久吉猫さんを見つめた。
「そうかい。……何かあったらいつでも頼ってくれよ」
ありがとう、と大きくうなずいてさっき来た道を戻ろうと踵を返す。すると、時を同じくして公園の入り口に人影が一つ。
「じゃみ!」
空気を震わせる大声で、息を切らせて私の名前を叫ぶその人物は、まぎれもなく私が会いたかった人だった。
「やっと、見つけた……っ」
翔太がこちらに駆け寄ってくる。その翔太の背後には、やはりどす黒い影。負の感情だ。先ほどより大きく、濃くなっている。思わず目をそらしたくなるが、翔太を助けると決めたのだから、これっぽっちで逃げちゃだめだと自分に言い聞かせる。
「勝手にどっか行くなよっ! 心配、するだろ……っ」
負の感情に気を取られていると、私はいきなり抱きしめられた。頭をうずめ、今にも泣きだしそうな翔太の声を耳元に聞きながら、私はこんなにも大事にされていたのかとこちらまで泣きそうになる。
今まで翔太にはいろいろともらってばかりで、私は何も返せていない。ここからは、私があげる番だ。
抱きしめたまま離そうとしない翔太の背中をそっとたたくと、ゆっくりと体が離れていった。
「どうしたの?」
とにかく、ぬらりひょんの力と負の感情の話をしなければ。そういえばと久吉猫さんがいたほうを見ると、いつの間にかいなくなっていた。普通の猫を装ってどこかへ消えてしまったらしい。今は二人にしてくれたことが純粋にありがたかった。
『しょうた ふのかんじょう みえなかった なんで』
「ふのかんじょう? ってどっかで聞いたことあるような……?」
どこだっけなあ、と記憶をたどるように上のほうを見ていたが、しばらくすると何かを思い出したようだ。
「ああ、そういえば、ぬらりひょんのじいちゃんと初めて会ったとき、負の感情がどうとか言ってたなあ。昔は妖怪に憑かれやすい体質だったみたいで、いろんなやつに憑かれて死にそうになってたところを助けてもらったんだよね。『子供に憑くのは別にいいがな、ちとやりすぎじゃ。死にそうじゃろうが』とか言ってた。体質はそのときにじいちゃんが治してくれたみたいなんだけど、それが確か負の感情を見えなくする、とかいうのだったと思うよ。こいつを肌身離さず持ってろ、って」
翔太は今度はなにやらお札のようなものを取り出した。効力を失っているのか、心なしか色褪せてぼろぼろになっている。
「あれ? こんなにぼろぼろだったっけ?」
翔太も同じように感じたようだ。石の時に感じたあの強く不思議な力も、これにはほとんど感じない。
するとやはり、久吉猫さんの仮説は正しかったことになる。一刻も早くなんとかしなくては。
今のところ、私が思いつく解決策は一つだけ。ぬらりひょんの屋敷に行って、跡を継いでいるという息子さんに新しくお札と石をもらえるように頼むこと。下級妖怪と人間の組み合わせじゃ取り合ってもらえないかもしれないが、そこはやってみるしか道はない。久吉猫さんにも協力をお願いすれば、なんとかしてもらえるのではないかと思っている。
そこまで考え、それを翔太に伝えようと小枝を握りしめる。まずは……。
その瞬間。文字を書いていた地面に、突然大きな影が現れた。私の後ろに、何かいる!?
驚いて後ろを振り向くと、そこにいたのは翔太の三倍はあろうかという大きさの、妖怪。思わず握っていた小枝を取り落とした。
気づくとあたりの空気はオレンジ色に染まっている。夕刻、昼と夜との境目、現世と幽世の境目があいまいになり、妖怪たちが活動を始める時間、逢魔が時。
しまった、と思ってももう遅い。早速翔太の負の感情をかぎつけた妖怪が来てしまったのだ。牛の顔に土蜘蛛の体、非常に残忍で獰猛な性格を持ち、毒を吐き、人を食い殺すことを好む妖怪――牛鬼。
翔太はまだぬらりひょんの効力が切れていることを知らない。久吉猫さんを呼んでも、もちろん私も、牛鬼相手ではほとんど無力。状況は最悪だ。かろうじて相手が公園の外にいるのが救いだろうか。
そんな中、のんきにその牛鬼を見上げる翔太。こいつの恐ろしさをかけらもわかっていない。見るからに危ないのに、怖いもの知らずなのか何なのか。
とりあえず、この場所から離れるのが最優先だ。小枝を拾いなおして文字を書く。
『あぶない にげる』
翔太の服を引っ張ってこちらに気づかせようとするが、牛鬼に夢中になっている翔太はなかなか気づいてくれない。少し強めに引っ張ると、バランスを崩して一歩こちらに踏み込んだ。
「ごめんごめん、どうかした?」
どうかした、なんてのんきな、と思いながらも先ほど書いた文字を翔太に見せる。
「えーっとごめん、さっき僕の足で文字消しちゃったみたい」
ああもう、こんな危機的状況なのに! 仕方なくもう一度書こうと小枝を手に取る。そのときだった。
「ねーねー! 君さ、大きいね! ねえ、友達になろうよ!」
……いま、翔太は何を?
おそるおそる確認すると、どう見てもあの牛鬼に話しかけている。しかも大声で。
私の顔から、さーっと血の気が引く音がした。遠くもないこの距離で、あんな大声で話しかけたら気づかれるに決まっている。
牛鬼が体をこちらに向ける。このままだと最悪の事態になることは確実だ。何とか翔太を止めようと、翔太の腕にしがみつく。
「どうしたの? そんなにくっついてくるなんて珍しいね?」
そうじゃない。そうじゃないんだよ! 人語が話せないことを、こんなにも恨んだ時はない。
そんな間にも、牛鬼は少しずつ、確実にこちらに近づいてくる。
なんとか遠くに行こうと腕にしがみついたままぐいぐいと翔太を引っ張る。
「じゃみのことは好きだよ。でもさ、友達は多いほうが楽しいでしょ?」
翔太はこちらを向きながら私の頭をなでている。なにやら見当違いなことを言っているが、そんなことより牛鬼と翔太を引き離すことが先決だ。
そんな私の奮戦もむなしく、とうとう牛鬼は私たちの目の前に辿り着いた。
大きく開けられた口が無情にも翔太を飲み込もうとする。
翔太が、食べられる?
まだ、何も返せていないのに。
さっき助けるって、決めたばかりなのに。
まだ、一緒に遊んでいたいのに。
まだ、
だいすきって、言えてないのに。
そこから先の記憶は、あまりはっきりとはしていない。
うっすらと覚えているのは、骨を噛み砕く音、錆びた鉄の臭い、自我を失った感覚。
気づくと、翔太も、牛鬼も、もうどこにもいなかった。
私はふたたび、独りになった。
もう、誰ともかかわらない。だって、
私は、邪魅。人を不幸に、する妖怪。
誰そ彼時の友人 亜月 氷空 @azuki-sora
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