圧勝

 俺は設置されていた岩の陰に潜み、配下たちに襲われている侵入者たちの様子を確認。奇襲を仕掛けるタイミングを窺っていた。


 もう少し配下を投入すべきだったか?


 数を投入しても簡単に倒されて敵の経験値と化すくらいなら……と、質を重視してミスリルシリーズを与えた配下を200体ほど投入したのだが、すでに50体を割り込んでいた。


 これ以上減ると、奇襲が仕掛けにくくなるか……。


「イザヨイ」

「ハッ!」

「準備はいいな?」

「いつでも」

「サブロウ、俺とイザヨイが静岡の勇者を倒したら、作戦通り――総攻撃を仕掛けろ」

終焉災厄ラストディザスターの名に相応しき悪夢をお見せ致しますぞ!」


 全員が首を縦に振り、手に持つ武器を強く握りしめる。


「行くぞ! ……イザヨイ!」

「ハッ!」


 俺の声に呼応する形で飛び出したイザヨイが、手にした槍――天沼矛あめのぬぼこで配下たちに襲われていた静岡の勇者の胴を背後から貫いた。


「――!? ……カッ!?……っな、なぜ……お前……が……」

「ほぉ、まだ命があるとは素晴らしい。どうですか? この世に顕著した唯一の神にして我が主、シオン様のために働いてみませんか?」

「クッ……ふ、ふざけ――」

「――《偃月斬》! 愚鈍ですね」


 自ら勧告しておきながら、答えを待つこともなくイザヨイは、衝撃波を伴う鋭い斬撃で静岡の勇者を両断した。


「――! ふ、古田ふるたぁぁあああ!」


 もう1人の静岡の勇者にして、俺の獲物――サトルが悲痛の叫び声をあげる。


「……ロス……コロス……コロス……殺す! お前たち魔王カオスは――」


 ――《偃月斬》!


 イザヨイにすべての意識が向いた瞬間、《闇のとばり》を解除し背後からブリューナクによる強烈な一撃をサトルに見舞った。


「――!? なっ!? お、お前は……――ッ!?」

「頭が高いですよ」


 振り向き、俺の顔を見て驚愕するサトルの太ももをイザヨイが天沼矛で貫いた。


「言いたいこと沢山あるだろうが……ここは戦場だ。静かに眠れ――《ダークショット》!」


 俺は携帯していたグローガンを取り出し、太ももを貫かれて膝を付いた状態となったサトルの頭を、闇の弾丸で撃ち抜いた。


「シオン様、お見事です」


 戦場のど真ん中にも関わらず、イザヨイは恭しく頭を下げた。


「――! さ、サトル……古田……」

「な、なんで……あいつがここにいるんだよ……」

「なんで……ここはまだ十四階層でしょ……」


 侵入者たちが、仲間の死……そして、俺とイザヨイの存在に気付いて驚愕する中――


「ハーハッハッハ! 闇に舞え、災厄に踊れ! 今宵、死の舞踏会ダンスパーティーの主役は創世王ジェネシスシオン様。鎮魂歌レクイエムを奏でるのは、終焉災厄ラストディザスターダークネス・ドラクル・三世なり!」


 意味不明な文言を垂れ流しながら、真っ先に飛び出したサブロウが、バランサーを務める愛知の勇者へと駆け、


「深淵の王にして、我らが主に刃向かいし愚かなる者に災厄の刃を――チームJ出撃!」


 マオの肩に乗った面白スライムの号令と共に、岩陰に隠れていたチームJの面々が一斉に飛び出したのであった。



  ◆



 15分後。


 静岡、愛知、福井の勇者たちが地に倒れており、唯一生き残っている岐阜の勇者たちも配下たちに囲まれ、息も絶え絶えとなっていた。


「シオン様」


 サブロウが俺に声を掛けてきた。


 このタイミングでの声掛けということは……。


「欲しいのか?」

「できれば……必ずやシオン様の……アスター皇国に役立つ人財に致します」


 俺も優秀な人材を集めるのは好きだが、サブロウは俺以上に人材を集めるのが好き……というか、優秀としているバーが俺よりも低かった。


 3人か。


 戦闘系の人材を配下にするときは絶対に裏切らないように、配下或いは眷属にする必要がある


 《統治》の予定があれば、そのときに配下にすることができるのだが……《統治》の予定はない。


 そうなると、眷属にするために1人あたり全CP――10時間分のCPを捧げる必要となる。


 経験値にしてもよかったが……このくらいの腕前があれば色々と役立ちもするか。


「時間が惜しい。機会チャンスは一回だけだ」

「寛大なご対応、ありがとうございます」


 サブロウは恭しく頭を下げると、チームJの面々に囲まれている岐阜の勇者の元へと向かった。


「勇者諸君、はじめまして。我輩は創世王ジェネシスシオン様が治めしアスター皇国の影の総帥ダークネス・ドラクル・三世だ」


 お? アスター皇国の名を汚すよなよ? 燃やしたくなるだろ。


「ダークネス・ドラクル・三世? ……創世王の眷属か?」

「フッ。眷属……すなわちシオン様に親しく従う者、或いは親族というのであれば……答えはイエスだ」


 ノーだよ。記憶は失っているが、お前みたいな親族がいなかったことだけは確定事項だ。


 燃やしたら、交渉は終了するよな? そこまで欲しい人材ではないが……下手な配下より腕は立つ……んー、我慢するか……。


 俺は目の前の汚物を焼き払いたい衝動を抑えて、汚物サブロウの交渉を見守ることにした。


「時間も惜しいから端的に問おう。以前、シオン様がされた提案オファーは未だ有効だ。どうだ、アスター皇国の臣民……いや、アスター皇国を影で支えし最強の部隊の一員にならぬか?」

「クッ……俺た――」

「待て。我輩の話を最後まで聞いてから、結論を述べよ。貴殿らは恐れ多くも、何人ものシオン様の大切な配下の命を奪い去った。本来であれば、その罪……同じく貴殿らの命を捧げることでしか許されぬ」

「……つまり、最後まで殺し合おうってことだろ!!」

「急き立てるな。我輩の力を持ってしても、無条件で貴殿らを配下に迎えることは不可能だ。故に、条件を1つ提示する!」

「……条件だと」

「条件はただ1つ! 3人全員が降ること。1人でも断るのであれば、全員を我輩たちのかてとする。知っていたかな? 貴殿らのような高レベルの勇者の経験値は……我々からみたらどれほど貴重で美味しいか」


 慣れか? サブロウの勧告は想像以上に上手かった。


 追い詰められた岐阜の勇者たちは互いの顔を見合わせる。


「さて、先程保留とした結論を聞こうか。猶予は……シオン様、どうしましょうか?」


 は? ここで俺に振るのか……。最後まで自力で頑張れよ。


 んー、どうすっかな。


「時間が惜しい。30秒だ……。イザヨイ、数えよ」

「ハッ! 1、2、3、4、5……」


 イザヨイが無慈悲に時間を数え上げる。


「……17、18、19、20」


 20秒をカウントしたところで、俺が左手を上げると、囲んでいた配下たちが武器を構えだした。


「……23、24、25、26、27」

「分かった! 降参する!」

「わ、私も!」

「クッ……俺もだ」


 岐阜の勇者たちは降参したのであった。

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