陽動

「どうした?」


 血相を変えたヤタロウが作戦室に飛び込んできた。


「シ、シオン、大変じゃ! 敵の本命は三〇一じゃ!」

「は? どういうことだ?」

「どうもこうもないわい! 自分の目で確認するのじゃ!」


 《乱数創造》以外でヤタロウが取り乱すのは珍しい。本当に緊急事態のようだ。


 俺はスマートフォンを操作し、ヤタロウの言うとおり第三〇一支配領域の様子を確認した。


 ――!?


 ……なるほどね。確かに敵の本命は第三〇一支配領域だ。


「どうしたのですかぁ?」


 第三〇一支配領域の状況を確認し、眉間に皺を寄せた俺にカノンが声を掛けてきた。


「敵の本命は第三〇四でも三〇五でもない。人類の本当のターゲットは――第三〇一支配領域のようだ」

「むむ? そうなのですかぁ?」

「敵の参謀はかなり小賢しいようだ。まさか……この局面で旧式の侵略を用いるか」

「旧式の侵略ですかぁ?」

「旧式――12人の最強戦力を第三〇一支配領域に投入してきたようだ」


 まさか新ルールが適用されたばかりの今――旧式のスタイルで侵略をしてくるとは……完全に意表を突かれた。


 ある程度は個の強さも見ていたが、無意識の内に見栄えと言うか……数で敵の強さを測っていた。


「旧式が故に……慣れもあるのじゃろう。大群で押し寄せている第三〇五よりよっぽど先に進んでおるわい」

「敵の強さは?」

「Aランク寄りのBランクじゃな」


 リナやコテツ、元魔王の幹部連中の強さがAランク。創造された配下の幹部――クロエたちの強さがBランク。創造されたばかりの配下の強さは軒並みCランク以外だ。


「ってことは、相手ができるのは幹部連中だけか」

「下手に配下を投入しても経験値になるだけじゃろうな」

「防衛メンバーの中で対応できるのは、イザヨイ、チームJ――後は、俺くらいか」

「カゲロウとツクヨミで互角といったところかのぉ」

「シ、シ、シオンさんが行くのは危険じゃないですかぁ」

「危険だろうな」

「ぐ、軍師として進言しますぅ! シオンさんはお留守番ですぅ! 魔王らしくドカッと構えているですぅ!」

「魔王らしく構えていたいが……そうなるとイザヨイやサブロウたちが消滅する可能性が高まってしまう」

「サブロウの命が100個……いえ、いくつあってもシオンさんの命には替えられないのですよぉ!」

「ヤバくなったらサブロウを盾にしてでも逃げるさ。今は、幹部の数を減らさないことを最優先に動くことにする」


 今回の大侵略を受けて痛感したのが、数の力は偉大だが……個の力も変わらず貴重と言うことだ。


 ここで貴重な幹部の命を散らすわけにはいかない。


 俺個人の強さ云々よりも、俺が防衛に出れば、最前線で直接配下に命令を下すことが出来る。このことが、幹部の生存率を大きく高めることに繋がる。


 守るべき命と投げ出す命。


 命の取捨選択こそが魔王である俺の役割だった。


「ヤタロウ、サブロウたちとイザヨイを抜いてもいいか?」

「致し方あるまい」

「配下はどれだけ投入しても構わない……防衛してくれ」

「任された。しかし……《乱数創造》に回すCPを残すのは厳しそうじゃの」

「防衛に成功したらボーナスを考えてやるよ」

「ふぉっふぉっふぉ。目の前にぶら下げられた人参のために頑張るかのぉ」

「それじゃ、サブロウたちを戻すとするか」


 ヤタロウに防衛の指揮権をすべて委ね、サブロウたちを呼び戻すのであった。



  ◆



「これより第三〇一支配領域の防衛へと向かう」

「――! ま、まさか……シオン様も向かわれるのですか……」


 俺の言葉にイザヨイの全身を震わせる。


「そうだ。俺だと力不足か?」

「――!? め、滅相もございませぬ……! クッ……私としたことが……許されざる言葉を……この罪は死して――」

「黙れ」


 イザヨイを含めた幹部を消滅させないために俺が防衛に出向くのに、何故いきなりこのアホは消滅しようとする。


「我が輩やイザヨイ殿だけでなく……シオン様も出向くのですか?」

「そうだ」

「ふむ……つまり、これより迎え撃つ敵はそれほどまでに強敵……或いは、シオン様が眷属に迎えたくなる逸材ということですな」

「余裕があれば捕らえたいが……最優先は迅速な防衛だ」

「承知しました。それ程の強敵であるなら……シオン様に1つお願いが」

「願い? 捕らえたら配下にでも欲しいのか? 何度も言わせるな! 最優先すべきは迅速な防衛だ!」


 戦闘前に体力を消耗させるのはナンセンスだが、そろそろ炎の槍で焼くべきか……と魔力を練り上げると、


「も、申し訳ございません。し、しかし、我が輩の願いは……我が妹を……リリを戦列から外すことをお許し下さい!」


 サブロウは真剣な表情でその願いを口にした。


「リリエルはいつからお前の妹に……って、それはどうでもいいか」

「よくないですぅ! そうやって有耶無耶にすると、この犯罪者は調子に乗るのですぅ!」

「ハッハッハ! 末の妹に嫉妬するカノンたんもオツですな」

「……死ねばいいのに」


 ――黙れ!


「リリエルは置いていく。防衛に向かうぞ!」

「「「ハッ!」」」


 俺はイザヨイたちを率いて防衛に向かうのであった。

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