連動
サブロウとイザヨイによる人類への嫌がらせを開始してから1時間。
「想定よりも対応が早いな」
人類も愚かではない。時間の経過と共に、指揮系統が正常化していった。
――サブロウ、イザヨイ。退却だ。
ガチンコで戦うなら、支配領域の外ではなく、支配領域内の方がこちらのアドバンテージは高い。
人類がまともに対応するのであれば……こちらから攻め入るメリットは皆無だった。
さて、こちら退いた。向こうはどうでる?
「ヤタロウ、出迎えの準備は抜かりないか?」
「無論。今回はシオンの意を汲んで、殺意性よりも遅行性を優先させた罠をふんだんに仕掛けたわい」
「上出来だ」
侵略者は下手に殺すより、弱らせる……或いは状態異常にかけた方が侵略速度は低下する。
さぁ、勇者たちよいつでも来るがいい。
万全の準備で人類の侵略を待ち構えていたが……、
「ん? 何やら騒がしいな」
支配領域の前を陣取っている人類たちが騒ぎ始め、
――♪
同時に俺のスマートフォンを着信を告げる電子音を奏でた。
発信者は外の様子を探らせているカエデだった。
『ん。お館様、南の魔王が出陣した』
――!
カエデの言う南の魔王とは、アスター皇国から岐阜県を挟んだ南――愛知県の魔王だ。
「ようやく、動き始めたか。規模は?」
『ん。いっぱい。西に攻め込んだ』
愛知県の魔王――『
さぁ、どうでる……人類?
理想は退却なのだが……。
人類たちが慌ただしく動き始める。
「んー、この動きは何だと思う?」
「戦力の集約じゃな」
「3箇所に戦力を集中させるみたいですぅ」
「これ以上の増援は望めなくなったのが原因だろうな」
第三〇一〜三一〇支配領域の前にそれぞれ1万ずつ待機していた人類たちが、第三〇四、三〇五、三〇六支配領域の前に集結し始める。
「ぱっと見、本命は第三〇五支配領域だが……」
「はい! 第三〇五支配領域の前には半数の5万人が集結してますぅ」
「第三〇五か……少し幅を狭くしておくかのぉ」
「本命は第三〇四だろ」
「え? そうなのですかぁ?」
「サブロウとイザヨイがちょっかいをかけた時、手強い人類が複数いた。そのすべてが第三〇四の前に集結してるな」
「おぉ……小癪にも陽動作戦を仕掛けてきたのですねぇ」
「そういうこった」
「ふむ、となると……兵力は第三〇五に集中。但し、サブロウのチームは第三〇四の防衛にあたらせる」
「イザヨイさんはどうするのですかぁ?」
「他にもまだ策があるかもしれない。俺と共に司令室で待機だな」
「――? 司令室と言うのは?」
「ここだ」
「ここは、ただのシオンさんのお部屋――」
――カノン、スカートを捲しあげろ!
「わぁぁぁあ! 何故ですぅぅぅう!?」
「雰囲気を壊した罰?」
「うぅ……雰囲気とか……そんなこと言ってるとサブロウみたいに――わーーー! ごめんなさいですぅぅぅうう」
空気の読めないカノンは空中で器用にブリッジの体制を取るのであった。
◆
『鉄風王』が動いてから15分。
人類によるアスター皇国へと侵略が始まった。
「ん?」
「どうしましたぁ?」
「第三〇四、三〇五、三〇六に集中するのかと思ったが……第三〇一〜三〇三、三〇七〜三一〇にも侵入してきたな」
「一点集中はやめたんですかねぇ?」
「いや、先の3箇所以外は侵略者の数が異様に少ない。こちらの指揮を混乱させるのが目的なのかもな」
「敵も頭を使いますねぇ」
「無策で攻めてくるようなアホはいないだろ」
とりあえず、当面は数の一番多い第三〇五と、本命と思われる三〇四に集中するか。残りの支配領域は適時配下を配置し、消耗頻度に応じて対策すればいいだろう。
「しかし、数が多いな……。見ているだけで気持ち悪くなるな」
「こんな大人数でダンジョンに侵略とか、風情もへったくれもないですねぇ」
入口から蟻の大群のように入ってくる人類たちは、見ていて
「まぁ、大人数が相手ならテンプレートどおりに対応だな」
テンプレート――リビングアーマーを前線に並べ、堰き止めた人類を後続の配下たちが遠距離攻撃で撃ち抜く。
シンプルにして、最も効果の見込める戦略だ。
「どけ! 俺たちが突破口を開く!」
第三〇五支配領域に力自慢の勇者様たちが現れる。
個の力で押してくるなら、個の力で対応しよう。
――イザヨイ! カゲロウとツクヨミと共に第三〇五の最残線に現れた勇者を押し返せ!
「ハッ! シオン様の仰せのままに!」
「ハッ!」
「承知しました!」
ダンジョン内――言い換えれば、陽の下にいないイザヨイの実力はアスター皇国の中でもトップクラスだ。
カゲロウとツクヨミはイザヨイと同じヴァンパイアバロンだ。最大CPを捧げるのは痛手であったが、防衛の強化を目的に半年前に創造していた。実力はレベルの差もあり、イザヨイに遠く及ばないが、急成長を遂げている期待のニューフェイスだ。
第三〇四支配領域の様子を見れば……、
日々、歪んだ性癖と統率力……そして実力が成長しているサブロウがチームJの配下と共に、侵略してくる配下を迎撃していた。
「妹よ、兄の勇姿をその目に焼き付けるのですぞ」
「はいです! 怪我をしたらリリがお兄ちゃんを治すです」
「はっはっはっ! これは、愛する妹のために……少し怪我でもしようかなっ! フッ、最強のお兄様――
一見ふざけているようにしか見えないサブロウだが、絶妙な動きで突出した強さの人類は自ら倒し、ときにはリビングメイルに指示を出しながら、強固な防衛戦を維持し、人類を迎撃していた。
「サブロウの指揮能力は無駄に高いよな」
「人格は終わってますけどねぇ」
「第三〇四はサブロウに任せておけば大丈夫そうだな」
「あーーー! よく見たら! シオンさん! 見てください! あの変態! リリエルちゃんを勝手に連れ出してますよぉ! バッチィですぅ! リリエルちゃんが汚れるですぅ!」
「あぁ……それなら……」
「儂が許可して、シオンに進言した」
「――!? な、なぜですかぁ! ヤタロウさんもリリエルちゃんを可愛がってたじゃないですかぁ!」
「ああ見えて、リリエルはサブロウに懐いておるからのぉ」
「犯罪です……犯罪の匂いがするですぅ……」
「安心しろ。一線は超えていない」
「当然ですぅ! 超えていたら、豚箱行きなのですぅ!」
「豚箱って……そんな施設アスター皇国にはねーよ……」
騒ぎ立てるカノンを見て、俺は苦笑するのであった。
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