魔王の秘伝書

「シオンさん、今回はどんな悪巧みをしてるのですかぁ?」

「悪巧みって失礼な奴だな」


 せっせと仕込みをしている俺にカノンが声を掛けてきた。


「まずは、トミオ……だっけ? あいつに『黒鉄の大斧』をプレゼントするだろ」

「おぉ……シオンさんからの無償のプレゼント!? これは裏がありますねぇ」

「お前は俺に対してどんなイメージを抱いているんだよ」

「魔王ですぅ」

「……まぁ、正解なのか? とりあえず、斧を贈呈して、トミオを強化して……宝箱の中には宝があると信じ込ませる」

「宝箱の中には宝……? 当たり前じゃないですかぁ?」

「当たり前だけど、念の為だな。とりあえず、トミオの様子を見てみるか」


 スマートフォンでトミオの様子を確認すると、先程配置した偽の宝箱の近くまで進んでいた。


「む? ギィ! ギィ! ギィ!」


 宝箱を発見したトミオは連れ従うゴブリンにゴブリン語で声をかけると、警戒するように宝箱を囲み始め……ゆっくりと手にした粗末な鉄の剣の切っ先で、宝箱を開放した。


「こ、こ、これはぁぁぁあああ!」


 トミオは宝箱から取り出した黒鉄の大斧を両手で抱えると、周囲のゴブリンやコボルトたちと一緒に小躍りし始めた。


 おぉ……喜んでる、喜んでる。


 新しい武器を入手したら、試し切りをしたくなるものだ。


 俺は間髪入れずに、創造したばかりの低レベルのゴブリンとスライムを防衛に送り込み、再び観察を続ける。


「むむ? 新手か! ギィ! ギィ!」


 トミオは仲間のゴブリンに何やら話しかけると、ゴブリン達は一歩引き、黒鉄の大斧を構えたトミオが一人で対峙する。


「今こそ修行の成果を見せてやる! 行くぞぉぉぉおおお!」


 トミオは鼻息荒く防衛に向かったゴブリンとスライムに立ち向かい、手に入れたばかりの黒鉄の大斧で蹂躪し始める。


 おぉ……強い、強い。腐っても魔王だな。


 興奮しているトミオを観察していると、


「シオン様、完成しました。これでよろしいですか?」


 田村女史が先程依頼したモノを持参してくる。


「お! いい感じだな。んー、ここに『最強の魔王』と追記してくれ」

「はい。畏まりました」


 田村女史は依頼したモノ――和紙に新たな文言を筆で書き込む。


「お! いいねー!」

「マサコ先生に何を書かせてるのですかぁ?」

「魔王の秘伝書」

「魔王の秘伝書ですかぁ?」


 カノンは首を傾げながら、和紙を覗き込んだ。


「こ、これは……!?」


 和紙に記載された内容を見て、カノンが驚嘆する。


『レベルが3に成長した魔王は下記の種族に進化できる。


 魔王(人種)←オススメ☆ いずれ最強になるかもよ

 初期種族。特徴はないが、レベルアップの度に進化先を選択できる無限の可能性を秘めた種族。

 進化条件 なし。


 魔王(鬼種)

 破壊衝動に駆られた魔王。筋力に優れ、魔法が不得手。

 鬼種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 肉体C以上。


 魔王(魔族種)

 進化する方向性によって、如何なる能力にもなり得る魔王。

 悪魔種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 魔力C以上。


 魔王(エルフ種)

 森の賢者にして守護者として君臨する魔王。知識を求め、魔力に優れる反面、耐久性に不安が残る。

 エルフ種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 知識C以上。


 魔王(ドワーフ種)

 万物を錬成する魔王。錬成に優れ、耐久性も高い。

 ドワーフ種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 錬成C以上。


 魔王(スライム種)

 型に囚われず、数多な進化をする大器晩成の魔王。耐久性に優れる。

 スライム種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 スライム種の配下を100体以上創造。


 魔王(獣種)

 獣化することで本能を解き放つ魔王。敏捷に優れ、魔法が不得手。

 獣種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 獣種の配下を100体以上創造。


 魔王(妖精種)

 自然と共に生きる万全なる能力を有する魔王。

 妖精種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 妖精種の配下を100体以上創造。


 魔王(吸血種)

 闇に生きる適性を有した魔王。闇の中でその力を発揮する。

 吸血種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 30日以上、光を浴びずに、自室から移動しない

 

 魔王(龍種)←オススメ☆ でも、なれるかなぁ?

 最強の魔王。己が可能性を信じ、耐え忍び、万物を支配することに成功した魔王。

 龍種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 100体以上の魔物を配下に頼らずに討伐する。


 魔王(堕天種)

 堕ちた天使は魔王となりて復讐する。

 堕天種の配下を新たに創造できる。

 進化条件 100人以上の人類を配下に頼らずに討伐する。』



「この『オススメ☆』って何ですかぁ? あと、各種族の文言も私の知識と微妙に違いますよぉ」

「文言に関しては、前に聞いた内容を思い出しながら指示したからだが……まぁ、伝わるだろ。『オススメ☆』は、あの黒幕なら何となく使いそうだろ?」

「あぁ……『すぺしゃるサービス☆』とかあったので、使いそうですねぇ。それで、これをトミオに渡すのですかぁ?」

「俺の手から渡しても疑うだろうから、宝箱に入れて贈呈だな」

「なるほどぉ! つまり、シオンさんはトミオを龍種にしてから配下にするのですねぇ」

「上手くいけばいいが……狙いはそうなるな」


 後は、こちらから本気の殺意を抱いたゴブリンなどをトミオの拠点に送り込むだけだ。


 この世界のルール――黒幕は、システムの穴を突いたような裏ワザを好まない。倒されるように命令した配下だと、ノーカウントの可能性もある。


「それじゃ、上手くいくことを信じて――『魔王の秘伝書』を仕込んどくか」


 俺は『魔王の秘伝書』を収めた偽の宝箱をトミオの進行先に配置するのであった。

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