侵略者の正体

 ……来たか。


 俺は『侵入警報』をアラート音を奏でるスマートフォンを操作した。


 さて、敵の数は……?


 侵入された支配領域の入口映像をスマートフォンに表示させると……、


 ――は?


 映し出されたライブ映像は、こちらの想像と大きく異なっていた。


「シオン! 敵襲だろ? 準備はいつでもいいぜ!」

「儂らも準備は万全じゃな」

「ハッ! 師父! クーフーリン、いつでも行けます!」

「おけまる」

「ご主人様……ただ一言ご命令下さい。この卑しい豚めに、肉盾になれと……ハァハァ」

「シオン、敵の規模は?」


 好戦的なタカハルを筆頭に幹部たちが次々と防衛を名乗り出る。


「えっと……なんだ……とりあえず、リナとカノン2人で十分だな」

「む? どういうことだ?」

「ふぁ!? わ、わ、私ですかぁ!?」

「あん? 防衛は俺の役目じゃなかったのか?」

「リナっちとカノンっち……シオンっちの逆鱗に触れるような悪いことしたっけ?」

「シオン様! 進言をお許しください! カノンたんの変わりに我輩が出ます! シオン様がカノンたんを不要と言うのであれば……チームJで引き受けますぞ!」

「え? え? な、なんで……シオンさん……ごめんなさい……よく分からないけど……謝るので……死地チームJへの異動だけはお許し下さい……」


 俺の言葉足らずの命令が原因となり、配下たちが混乱する。


「すまん。説明が抜けてたな。侵略者は――コボルト100体とゴブリン100体……後は、ウルフも数匹に、魔王が1人だ」

「――! そ、それって……」

「稼ぎ場? 実験場? ……名前は失念したが、例の魔王だな」

「魔王トミオですぅ……そっかぁ、トミオも支配領域から出られるようになったのですねぇ」

「リナ、カノン。トミオ以外のすべての魔物を排除してこい」

「了解した。トミオは逃せばいいのだな?」

「はぁい! 行ってきますぅ!」


 カノンとリナは、防衛へと向かった。


 リナとカノンを指名した理由は、万が一でもトミオを殺さないための配慮だ。ついでに僅かとはいえ、カノンに経験値を稼がせる狙いもあった。


 しかし、アレは支配領域から出られないのが最大のメリットだったのに……どうすっかな?


 外に出られたからと言って、アレが脅威になる可能性は皆無だろう。


 放置していても問題はないのだが……、


 ――!


 良いことを思い付いた!


 とあるアイディアを思い浮かんだ俺は、アキラを近くに呼んだ。



「ん? なに?」

「宝箱っぽく見える箱を作れるか?」

「だいじょうぶ。もんだいない」

「至急、作ってもらえるか?」

「らじゃー」


 命令を受けたアキラは工房へと向かった。


 次なる仕込みは……っと、その前にリナとカノンだな。


 俺は急ぎスマートフォンを操作し、リナ視点のライブ映像を確認。


 おぉ……まだ数分しか経ってないのに、圧倒的だな。


 リナが軽く剣を振るだけで複数のコボルトが消滅し、カノンの杖から放たれた炎が複数のゴブリンをまとめて焼き払っていた。


 ――リナ、カノン! 頃合いを見て、負けた振りをして撤退しろ!


 こうなると、リナとカノンを防衛に向かわせたのは正解だった。


 タカハルを向かわせていたら、とっくにトミオの部隊は殲滅していただろう。


「わぁー! 強いですぅ!」

「クッ! カノン! 撤退だ!」


 俺の命令に従い、棒読みのカノンとリナが撤退。


 えっと……あいつらでも勝てそうなのは……スライムくらいか?


 俺は撤退したリナとカノンの代わりに創造したばかりのスライムを防衛に向かわせたのであった。



  ◆



 魔王トミオの侵略から60分。


 防衛するのはスライムのみとなった結果、魔王トミオは破竹の勢いで進み始めた。


「おい? シオン、何をしてるんだ?」


 会議を中座して、トミオの相手を始めた俺にタカハルが多少苛つきながら声を掛けてくる。


「レアな配下を得るための仕込みだな」

「は? 意味わかんねー」

「レアな……配下じゃと……! つまりは、ガチャを回すのじゃな!」

「回さねーよ! レアな配下を作るんだよ」

「そんなまどろっこしいことをする必要はない。乱数の女神にすべてを捧げるのじゃ」

「捧げねーし! そっちのほうがまどろっこしいだろ!」


 タカハルとヤタロウの相手をしていると、


「できた。これでいい?」


 アキラが頼んでいたアイテム――宝箱そっくりの箱を2つ持ってきた。


「お! 上出来! 上出来!」


 さてと、何を仕込むかな……。


 俺は所有しているアイテムを確認する。


 神器だと、使い手がいないのは両手斧か……。


 ここは期待を込めて、両手斧を贈呈するか。


 俺はアキラが用意した宝箱もどきの中に『黒鉄の大斧』を仕込み、配下にトミオがあと少しで到達しそうな場所に配置するように命令。


 次なる仕込みは……俺は周囲を見渡して田村女史に目を付ける。


 俺が書いてもいいが、田村女史の方が達筆そうだから雰囲気が出るだろ。


「田村女史、一つお願いをしてもいいか?」

「はい。シオン様、何をすればよろしいでしょうか?」


 俺は田村女史を呼び寄せる。


「シオンって、あのばーさんに甘いよな」

「シッ! バカ! タカっち! あの悪夢を忘れたっしょ!」

「ん? ああ! お前がサブロウに――」

「マジ卍! タカっちのバカ! 死ねばいいのに!」


 タカハルとサラが何やら騒いでいるが、放っておこう。


「田村女史、この紙に俺の言う文章を書いて貰っていいか?」

「はい? そのようなことでよければ」


 俺は最後の仕込みを始めるのであった。

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