茶番
俺は会議室に幹部を集めて作戦会議を始めた。
「カエデは引き続き豚――魔王モトキを監視しろ」
「わかった」
次は索敵だな。サブロウ……いや、万が一の保険を考えてエルフのサラにするか。
「サラ、部隊を引き連れてこの辺を調査せよ」
俺は目の前に広げた地図のある一部を指して、サラに指示を出す。
「り! 敵と会ったらどうするし?」
「確実に殲滅しろ……数が多い場合は撤退を許可する」
「おけまる」
サラは手をおでこに――敬礼のポーズを取る。
「あん? 何でそんか場所にサラを行かせんだ? あの砦は諦めたのか?」
「いや、諦めてはいない」
「なら、侵略からサラを外すのか?」
俺の不可解な指示にタカハルが物言いをする。
「そうなるな」
「は? いや、別にサラなんかいなくても問題はねーけど……俺ほどじゃねーし、極々僅かとは言えコイツの魔法は悪くねーだろ?」
サラを褒めるのがよほど嫌なのか、タカハルがおかしな日本語で意義を唱える。
「にしし……タカっちはあーしがいないと不安みたいな?」
「は? バカ! ちげーよ!」
からかうサラの言葉にタカハルは声を荒げて否定する。
「サラが貴重な戦力なのは間違いない」
「――!? シオンっちがあーしを褒めた!? あーし、明日死んじゃうの?」
「ん? 死にたいのか? 流石に消滅させるのは勿体ないから、社会的に死んでみるか?」
俺はサブロウへと視線を移して、サラに脅しをかける。
「う、ウソだし! シオンっちはいつも優しいし! だ、だからお願い……アレをけしかけるのは止めるし!」
「むむ? 結婚は墓場とは言いますが、某は幸せな家庭を築く自信はありますぞ! ――ハッ!? シオン様! アスター皇国は一夫多妻制ですよね?」
サブロウが俺の想像していた罰の数倍残酷なことを言い始める。
「話を本題に戻す。明日以降も南砺砦に侵略するが……本気は出さない」
「本気は出さないってどういうことだよ」
「侵略するのはポーズだな。小競り合い程度で終わらせるつもりだ」
「あん? 何でだよ!」
脳筋のタカハルは今回の作戦が気に食わないようだ。
「正攻法で落とすのはキツイからだ」
「んじゃ、どうすんだよ!」
「策を弄する」
俺はこれから行う戦略を幹部たちに説明した。
「シオン」
「何だ?」
「その作戦だと、俺いらなくないか?」
「仕上げには必要だ」
「その仕上げっていつだよ」
「二〜三週間後?」
「その間、違うことしててもいいか?」
好戦的なタカハルは消極的な作戦を嫌う傾向にあった。
俺は少し思考する。作戦の序盤においてタカハルの出番は皆無だ。
「別にいいが、何をする?」
「部下どもを鍛え直す」
「どこで?」
「んーそこらへんの支配領域じゃダメか?」
「そこらへんって……どこにあるんだよ。まぁいい……適当に岐阜の支配領域で遊んでこい」
「おうよ! 遊びじゃなくて、修行だからな!」
「他に質問や要望がある者は?」
俺は幹部たちを見回すが、タカハルのように我儘を言う幹部はいなかった。
「それじゃ、明日から作戦どおりに頼む!」
作戦会議を終えた俺は、幹部連中に解散を告げるのであった。
◆
翌日、17:00。
豚との約定を果たすべく、南砺砦に向けて出兵。
17:50。
豚が前日同様に、定刻より早いタイミングで侵略を仕掛ける。
俺はカエデを通じて、豚の侵略の様子を観察。
「フッハッハッハ! 今宵も我らと時を同じくして『十三凶星』にして盟友のシオンと共に、貴様らの砦を侵略致す!」
ネットでの告知を禁じられた豚ではあったが、直接だと問題ないと解釈したのか……先日同様にこちらの侵略を漏洩する。
「我らは立山砦を盟友シオンは南砺砦を! 貴様らの防衛ラインを破滅してくれるわ!」
豚はご丁寧に南砺砦と場所までも人類に告知する。
俺はスマートフォン越しとは言え、これ以上あの豚の顔と声を聞くのは苦痛なので、スマートフォンを閉じた。
「豚が侵略を開始した。俺たちも侵略を開始する」
俺は配下を引き連れて南砺砦へ進軍を開始。
南砺砦の前には先日同様にファランクスの部隊が陣を敷いていた。
「矢の届く位置まで進軍せよ!」
アイアンの部隊を先頭にこちらの攻撃が届く範囲まで進軍。
「――放て!」
俺の声に合わせて無数の矢と魔法がファランクス部隊に降り注ぐ。
南砺砦から飛来する矢はアイアン部隊が構える盾に弾かれ、こちらから仕掛けた矢と魔法はファランクス部隊の盾に塞がれる。
まさに、茶番と呼ぶに相応しい小競り合いを三時間ほど演じ、豚の撤退、富山市からの増援と昨日と同じ状況まで粘ってから撤退したのであった。
翌日、同様に茶番を繰り返し撤退。
翌々日、茶番続きも不審がられるのでコスパに優れるゴブリンとグールを投入。
更に次の日、茶番を繰り返す。
こうして、俺は茶番とも言える小競り合いを3週間繰り返したのであった。
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