謀略開始


 魔王モトキとの同時侵略を始めてから23日目。


 ~♪


 今日も朝から不快な声を告げる電子音がスマートフォンから鳴り響く。


 発信者は豚――魔王モトキだ。


『シオン、昨日も小競り合いで終わったとの噂だが、真実か?』

「何をもって小競り合いと定義する?」

『詭弁は十分だ! シオンの――『十三凶星』の実力はこんなものではなかろう! いつ! いつ本気を出すのだ!』

「俺はいつでも本気だが? それを言うなら、そちらも昨日も早々に撤退したようだが?」

『クッ⁉ こちらは弱小故、今でも精一杯戦っておる!』

「なるほど。ならば、俺も同じ答えを返そう。精一杯戦っている」

『……わ、私は盟友シオンの力を知っている! シオンの力はそんなものじゃないはずだ!』

「お前が俺の何を知っている? まぁいい。仮に俺は本気を出していないと仮定しよう。それで、俺がお前に本気を出して侵略する日を教える理由は?」

『そ、それは……アレだ! 我らは盟友! 一心同体の関係なり!』

「一心同体なら、俺の考えは読めるだろ?」

『ぐぬぬ……そちらの動向が読めなくば、こちらも合わせられぬではないか!』

「合わせるとは? 何を合わせるというのだ?」

『そ、それは、互いの――』

「まぁいい。時間の無駄は省くとするか。一週間以内に何か大きな動きを見せる」

『一週間以内だな?』

「こちらにも準備がある、多少の誤差はあるかも知れないがな」


 これ以上不快な豚の鳴き声を聞くのは堪え難い。俺は一方的に電話を切断した。


 さてと、そろそろ頃合いか?


 俺はスマートフォンを操作して、とある配下に電話を掛ける。


『あいあい! シオンっち』

「準備は万全か?」

『おけまる! いつでもいけるっしょ!』

「ならば、今夜決行する。最後の巡回を頼む」

『り』


 準備は整った。


 この停滞した流れをぶっ壊すか。


 俺は幹部たちを集めて、今夜の作戦を伝えるのであった。



  ◆



 17:30。

 豚がいつも通りに先走って、立山砦へと侵略を開始する。


 18:00。

 アスター皇国が南砺砦へと進軍。


 18:30。

 小競り合いの最中、大量のグールをファランクス部隊へと突撃させる。


 同刻。

 俺は立山砦から5km北上した先にある過疎化した農村地帯で待機していた。


 現在俺のいる半径3km圏内に人類が存在していないのはサラの巡回で確認済みだ。富山県の人類たちは、富山市の中心部に身を寄せ合っている。


 当然、無人の土地は魔王に統治されてしまうので、人類も監視体制は整えている。但し、監視の対象は隣接する支配領域の主――魔王モトキに集中していた。


 そして今、その監視対象は立山砦の侵略の真っ最中であった。


 見回りが巡回しているのも調査済みだが、その見回りは先ほどサブロウの部隊が葬り去った。監視カメラの類も位置は把握済みだ。


 この時間帯はアスター皇国と魔王モトキが富山県の人類相手に茶番を仕掛けるホットタイムだ。茶番とは言え、命がけの茶番だ。多くの人類が南砺砦と立山砦に意識を集中させていた。


 結果として、生まれた現象は――


 ――≪統治≫


『《統治》を開始しました』


『有効範囲内にいる敵対勢力に《統治》を宣言しました』


『180分以内に有効範囲内にいる全ての敵対勢力を排除して下さい』


『有効範囲内に敵対勢力の存在はありません』


『有効範囲内の地図を表示しますか? 【YES】 【NO】』


 無人の地への≪統治≫であった。


 ――総員、周囲を警戒せよ! 敵対勢力は見つけ次第排除!


 念には念を入れて、四方に配下を配置。


 20:30。

 魔王モトキが撤退を開始。同時に、富山市の人類が南砺砦へと移動。

 統治終了まで残り60分。


 21:10。

 用意していたグールの部隊が全滅。南砺砦侵略の指揮を任せているコテツは、その後も遠距離攻撃を主体に茶番を続ける。


 21:30。


 ――『統治を完了しました』


 多少の戦闘は覚悟していたが、呆気なく≪統治≫は完了。


 俺はこれ見よがしに、外から見ても支配領域とわかるように支配領域の創造を実行。


 立山砦から僅か2km先にアスター皇国の支配地が完成したのであった。



  ◆


 新たな支配領域の創造をしていると、


 ~♪


 不快な豚の鳴き声を告げる着信音をスマートフォンが奏でる。


『シオン! アレはどういうことだ!』

「アレとは?」


 第一声から豚の声は荒れていた。


『立山砦の北に現れた支配領域のことだ!!』

「あぁ……そのことか。空地だったから≪統治≫した」

『わ、私は聞いておらぬぞ!』

「言う必要があるか? あ、一応伝えていたぞ……一週間以内に大きな動きを見せると」

『内容までは聞いておらぬ! それに一週間以内じゃなかったのか!』

「今日も一週間以内だろ?」

『今日ならば、今日と言えばよかろう! 私を騙したのか!』


 豚はかなりご立腹なのか、ブヒブヒと煩い。


「騙した? 何を言っている? 俺が、いつ、お前を、騙した?」

『何故、今回の件を隠していた! 言え! 私を騙していたのであろう!』

「おい? さっきから黙って聞いていれば、何か勘違いしてないか?」

『何がだ!』

「俺とお前の関係は何だ?」

『め、盟友だ!』

「盟友――つまりは、同盟を結んだ間柄だ。今回の同盟の件で取り決めた内容は、互いの不可侵条約、そして出血大サービスとして俺が受け入れた――富山県の人類に対しての同時侵略だ」

『そうだ! お前は私と共に協力して富山県の人類を討伐する約束だ! しかし、お前は私を騙してスタンドプレイに走った!』

「おい? 何か勘違いしてないか? お前は俺の主か? 俺がどこで、何か、するのにいちいちお前の許可が必要なのか?」

『そ、そういう訳ではないが……しかし、我らは盟友として互いの――』

「調子に乗るなよ? 俺はお前との約束を守って、お前の支配領域に侵略せず、富山県の人類に対して攻撃を仕掛けた。俺が、どこで、何をしようが……お前に何か言われる筋合いはない! 違うか?」

『し、しかし……それでは同盟の意味――』

「あん? お前は俺に対して従属しろとでも言うのか?」

『違う! 対等な同盟関係として……』

「十分対等だろ? 俺はお前の言いだした約束を守っている。お前も黙って約束を守ってればいいんだよ」

『ぐぬぬ……わかった。しかし、今後は――』

「今後も俺の行動をお前に報告をする気は一切ない。嫌なら、同盟を解消すればいい。どうする?」

『わかりました……』


 俺らしくもなく感情的にはなってしまったが、魔王モトキを封殺出来た。


 こうして富山県侵略の第一段階となる作戦が成功したのであった。


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