豚の狙いは?


 モトキの狙いは何だ?


 真性のアホなのか――もしくは、こちらに敵の戦力を陽動させるのが狙いなのか?


 前者であれ後者であれ、味方としては最悪の存在だ。今すぐにでも同盟を解消したいがネットで全世界に宣言した以上、こちらからの破棄は体裁が悪い。


 同盟は期間満期と同時に破棄だな。


 モトキの存在を知って初めて……カオルの存在の貴重さに気付く。


 同盟相手は慎重に決めるべきだった。


 奇襲を仕掛けるつもりではなかったが、敵の防衛体制は完璧だろう。機を改めたいところだが、モトキのアホがあそこまで宣伝した以上侵略を中断したら……非難されるのはアスター皇国となるだろう。


 と、後悔を今するのはナンセンスだ。


「定刻より南砺砦への侵略を開始する! 敵の抵抗はいつもより激しくなると思われる! 隊長各位は自身と配下の命を無駄に散らさぬよう、慎重に侵略を進めてくれ!」


 覚悟を決めた俺は配下たちを鼓舞する。


「ん? 何かあったのか?」


 リナは俺の鼓舞に違和感を覚えたようだ。


「俺たちが18:00に南砺砦を侵略することが敵方に露呈した」

「何があった?」

「モトキのアホが派手に宣言をした」

「――?」

「先ほど立山砦を先走って侵略して宣伝。ネット上でもご丁寧に告知している」

「は? 何のために?」

「理由か? 俺も知りたいな。 自己顕示欲を満たすためか……」


 或いは、俺を罠に嵌めるためか。


 士気の低下を防ぐため、後者の理由は心の中に留める。


「戦略に変更は?」


 戦略の見直しか……とは言え、現在の時刻は17:45。時間が足りなすぎる。


「侵略する側とは言え、専守防衛の布陣に修正するか」

「あん? 攻めるのに守るってどういうことだよ」


 俺の言葉にタカハルが反応する。


「今日の目的は敵の戦力を減らすこととする」

「だったら、攻めまくればいいのか?」

「いや、南砺砦の前で陣を敷いて防衛に出てきた人類を迎え撃つ」

「攻めんのに迎え撃つのかよ!」

「人類が砦に籠もったらどうする?」


 俺の告げた新たな戦略にタカハルは不満を示し、リナは不安要素を告げる。


「魔法と矢をたらふく撃ち込め。それでも引き籠もるようなら、釣るために囮の部隊を動員する」

「今回はやけに慎重だな」

「不確定要素が多いからな」


 敵にするよりも味方にした方が厄介な者は存在する。


 今回で言えば、それがモトキだ。


 不幸中の幸いなのは、モトキとは戦場が別なことくらいだろうか。


 幸先の悪いスタートとなってしまったが、時間も迫ってきたので、俺たちは南砺砦へと進軍を開始したのであった。



  ◆



「厳戒態勢だな」


 人類の土地に侵略を仕掛けたことは何度もあった。但し、こちらの都合で突然仕掛ける侵略だった。


 最初から宣戦布告をしてから侵略を開始すると、どうなるのか?


 答えは目の前に並ぶ光景だった。


 大盾を構え長槍を持った人類たちが立山砦の前に布陣していた。目線を少し上げれば、砦の塀から弓を構えた人類の姿も確認出来る。


 ファランクスってか?


 別に騎馬隊で突撃を仕掛ける訳ではないが、攻めづらいことには変わりない。


「サラ、どこまで行けば魔法が届く?」

「あーしだけなら、射程は100メートル」

「サラ以外は?」

「50メートルみたいな?」


 弓の射程はどのくらいだ?


 俺は適当に選んだ50体のリビングメイルに盾を構えた状態での前進を指示する。


 攻撃はして来ないな?


 ――各位、武器を打ち鳴らせ! 地を踏み鳴らせ!


 配下たちが命令に従い武器を打ち鳴らし、地を踏み鳴らす。周囲は巻き上がる土煙に覆われる。


 お?


 カンッ! と乾いた音が響き、先頭を歩いていたリビングメイルの前に矢が落ちた。


 射程距離は200メートル程か?


 コワレタ世界により増幅したチカラと、高さによる地の利から、矢は放物線を描き魔法を遥かに超える射程距離で放たれた。


「サラ、あそこから魔法は届くか?」

「ムリっしょ」


 サラはあっけらかんと告げる。


「厄介だな……」


 今までも建物に立て籠もった人類とは対峙してきた。しかし、その建物は学校であったり、役所であったり……戦いとは無関係の建築物だった。


 しかし、今回の建築物――南砺砦は、防衛に重きを置いて建築された建物だ。


 トラックアタックであの門は撃破出来るのだろうか?


 目の前の南砺砦が難攻不落の要塞に見えてきた。


 奇襲の形を成していたら……あのファランクス部隊も弓を構えた部隊も減っていただろう。


 さてと、どうやって攻略しようかな。


 俺は目の前の砦の攻略に頭を抱えるのであった。

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