暴走する豚


「して、我らの絆をいつ知らしめる?」


 中継が終わるや否や魔王モトキが尋ねてくる。


「絆? 同時侵略の件か?」

「うむ! 鉄は熱いうちに打てと言うだろ! 盟友として進言する! 可及的速やかに我らの絆の強さを知らしめるべきだ!」


 魔王モトキからすればこの同盟の意義の大半はこの同時侵略なのだろう。


 こいつの進言とやらに従うのは癪だが、元々礪波市の拠点は攻める予定だった。


「いつ決行できる?」

「と言うと?」

「お前が待望している同時侵略だよ」

「そうだな……その前に一ついいか?」

「なんだ?」

「我らは盟友だ」

「……そうだな」


 目の前の豚が盟友というのを認めるのは中々に抵抗はあるが、俺は首肯する。


「お前という呼び方はどうかと思う」

「モトキ殿とでも呼べばいいか?」

「私は貴公をシオンにゃんと呼ぼう! シオンにゃんも私をモトにゃんと呼んでくれても構わない!」

「却下」


 構わない訳がない。


「――⁉ な、何が気に入らぬのだ……」

「全て。俺はモトキと呼ぶことにする、お前もシオンと呼べばいい」


 この豚に呼び捨てにされるのも癪だが、俺は妥協することにした。


「呼び捨てか……まるで夫婦――」

「この同盟を無かったことにしてもいいか?」

「な、なぜだ……」


 目の前の豚が本当に気持ち悪い。カノンの勘を信じるべきだったのか……。


「それで、いつ決行できる?」


 俺は気持ち悪い話題から1秒でも早く離れるべく、モトキが食らいつく本題に戻す。


「う、うむ……しかし、その前に――」

「俺は、いつ決行できる? と聞いているのだが?」

「そ、そ、そうだな……3日……3日後でどうだ?」

「3日か。俺を急かす割には悠長だな。まぁ、いい。では3日後の18:00より同時侵略を開始する」

「じゅ、18:00だな。わかった」

「互いに準備で忙しくなるだろう。ここで失礼する」


 俺は話すべきことのみを話し、この場から立ち去るのであった。



  ◆



「シオン、あの豚殺そうぜ」


 転移先に設定した執務室に着くや否や、タカハルが物騒な提案をしてくる。


「気持ちはわかるが、我慢しろ」

「ご主人様、私もタカハル氏の意見に賛成です!」


 セクハラの被害を露骨に受けたヒビキも珍しく進言をしてくる。


「あーしもアレが同種っていうのは受け入れがたい的な?」

「ふふん♪ だから言ったのですよぉ」


 サラもモトキに嫌悪感を露わにし、カノンはドヤ顔で鼻を膨らませる。


「まぁ、皆の気持ちはわかるが……配下になった訳ではない、盟友として精々役に立ってもらうとしよう」

「盟友って助けにいくこともあるのか?」

「え? マジ無理!」

「ご主人様がご命令下されば……援軍もやぶさかではないですが……アレは私の配下(オーク)にも劣る存在ですね」

「私は見捨てるのも戦略の一つと、軍師として進言しますぅ」


 モトキの存在は元魔王の幹部からは総スカンのようだ。


「そんな局面が訪れるかは不明だが、その時に取る行動はアレの評価次第だな。とりあえず、戦の準備をするぞ」

「あいよ」

「り」

「畏まりました」

「はーい」


 俺は気乗りしない幹部に命令を出すのであった。



  ◆



 モトキと同盟を結んでから3日後の17:00。


 南砺砦から3km離れた位置にて、1万の配下と共に布陣を敷いていた。


 約定の時まで残り1時間か。


 俺は念のために、監視の任を与えたカエデに連絡する。


「そちらの様子はどうだ?」

『ん。豚の軍勢はだいたい5000』

「対する立山の陣営は?」


 モトキは富山市を守る最後の“立山砦”を侵略する手はずになっている。


『ん。30,000くらい?』

「少なくないか?」


 こちらの侵略目標――南砺砦の人員は10万だ。


『んー、でもそのくらい』


 富山県の人類の本拠地――富山市には多くの予備戦力が控えている。状況を見て援軍を出す予定なのだろうか?


「まぁいい。動きがあったら教えてくれ」

『わかった』


 最悪の可能性――同時侵略と見せかけて、俺たちが侵略。敵の戦力がこちらに偏ったときを見計らっての、ハイエナ行為はしないようだ。


 モトキは話した印象、会った印象共に愚鈍。裏切りは杞憂だったようだ。


 仮に裏切られても、どうせ南砺砦は侵略する予定だった。当て馬にされたのはムカつくが、その時は直接仕返しをすればいい、程度に考えていた。


 これで、富山市に控える予備戦力は東西に割れるか?


 多少は楽になったが……敵の戦力は強大だ。


「最初が肝心だ! 今日の攻撃でどれだけ敵の士気を挫けるのかがポイントだ! 各位、全力で敵を掃討せよ!」


 統治のポイントは敵――人類の心をいかに折るかだ。


 長期戦はダメだ。圧倒的な戦力差を見せつけて、絶望を与えなくていけない。


 先陣を切る、タカハルの部隊はやる気十分だ。戦闘狂であるタカハルの性格が良い方向へと転がっている。


「これより30分後に攻撃を仕掛ける! 各々最終準備に――」


 ~♪


 最後の檄を飛ばそうとしたその時――着信を告げる電子音が響く。


 発信者は――カエデ。


「どうした?」

『動いた』

「は?」

『豚の軍団が攻撃を仕掛けた』


 は? まだ30分前だぞ?


 早く仕掛ける分には問題はない。富山市に控えた予備戦力がモトキの方に流れる。南砺砦を侵略する俺から見れば好都合なのだが……。


 真性のアホなのか?


 俺は電話では埒が明かないと判断し、スマートフォンをカエデ視点のライブ映像へと切り替えた。


「行くぞ! 行くぞ! 我らの盟友――『十三凶星』のシオンも共に南砺を侵略する! 今こそ我らの絆で富山県の人類を討ち滅ぼすのだ!」


 は?


 カエデの視点を通して流れる画面には、意気揚々と今回の同時侵略を宣言する魔王モトキの姿が映し出された。


「我らは礎! 本命は魔王シオン! 絆を見せつけるのだ!」


 は?


 モトキは自分が陽動とか意味不明な言葉を捲し立てる。


 あのアホは何を言っている……?


 あのアホは侵略側の最大の好機――侵略した瞬間を消し飛ばしている。


 ~♪


 頭の痛くなるライブ映像を見ていると、スマートフォンが着信を告げる電子音を奏でた。


 発信者は――タスク。


「なんだ?」

『た、大変っす! 今回の侵略ですが……魔王モトキがネットで大体的に告知しています!』

「は?」

『えっと、詳しくは『石川 富山 同時侵略』で検索っす!』


 俺はタスクとの通話を終えて、言われた通りのワードで検索する。


『今宵! 我ら富石同盟は――宿敵富山県の人類へと侵略を仕掛ける! 侵略の開始時間は18:00! 場所は、南砺砦と立山砦! 富山県の人類よ震えて眠るがよい!』


 ………。


 俺は魔王モトキの味方としての評価を大幅に下げ、敵としての評価を一段階上げたのであった。

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