今後の戦略②


「――チマチマ戦力を削って千日手」

「え? それだと、現状を打破することは……」

「現状の打破とは?」

「魔王カオルを倒して石川県統一ですぅ」


 俺の答えに、カノンが反論を唱える。


「なるほど。カノン、俺の目的は何だ?」

「え? アスター皇国の目的ですかぁ?」

「違う。アスター皇国ではなく、俺の目的だ」


 アスター皇国を建国したのも、言うなれば俺の目的を果たすため。


「シオンさんの目的……? 石川県統一? 日本統一? ――!? 世界統一!」


 カノンは閃いた! と言わんばかりの笑顔で世界統一と答える。


「違う。俺がいつ世界統一をしたいと言った?」

「むむ……――!? 世界征服ですかぁ!」

「言い方の問題じゃない」

「うぅ……シオンさんの目的……シオンさんの目的……」


 カノンは頭を抱えて悩み出す。


「俺の目的は――生きること」

「生きる……ですかぁ?」

「そうだ。加えるなら、優雅に生きることだな」

「優雅にですかぁ?」

「変わり果てた今の世界はメチャクチャだ。一つの失敗が簡単に死へと繋がる」

「ですねぇ……私もシオンさんが受け入れてくれなかったら……」

「俺の適性検査の結果は――カオス。自分の配下以外の全てが敵」

「そう言われるとカオス――魔王って不憫ですよねぇ」

「故に、俺は生を望んで抗う」

「何か、今の言い回しはサブロウみた――」


 ――スカートを捲し上げろ。


「キャァー!? い、今のは失言ですぅ。私が悪かったですぅ」


 カノンはスカートを捲し上げながら、己の過ちに気付き謝罪する。


「カノン、サブロウと似ているな? と言われたらどんな気持ちだ?」

「死にたくなりますぅ」

「だよな? 今、お前が俺に言った言葉はそういう意味だ」

「ごめんなさい……」

「分かれば、いい」


 心の広い俺はカノンの謝罪を受け入れる。


「話を戻すが、カノンの言っていた現状の打破――石川県統一をする意味は?」

「え? そ、それは……県内の敵を一掃すれば、気持ちが良いと言うか……」

「ゲームであれば、地域制覇ボーナスとかが存在するかも知れない。或いは、何かのイベントのフラグになるかも知れない。しかし、現実世界だとどうだ?」

「多分……何もないですぅ」

「つまり、石川県統一は――自己満足となる」

「身も蓋もない言い方ですねぇ……」

「よって、石川県統一の優先順位は低くなる」

「で、でも……今後はどうするのですかぁ? 富山県に進出ですかぁ?」

「俺の話を聞いていたか? 最初に言っただろ――魔王カオルの戦力をチマチマと削って千日手。これが、今後の戦略だ」


 俺は当初の戦略を再度カノンに告げる。


「それだと何も変わらないですよ! その間に他の魔王や人類の勢力は強くなるのですよ! 昔、シオンさんがそう言ってたじゃないですかぁ!」

「何も変わらない? 本当にそうか?」

「だって、シオンさんが千日手って! 千日手って千日経っても状況が変わらない……そういう意味じゃないんですかぁ!」

「状況は変わらないかも知れないが……変わるモノはある」

「何ですかぁ?」

「経験値だ。チマチマ戦力を削ってって言ったよな? 戦力を削ると言うことは、敵を倒すと言うことだ」

「えっとぉ……つまり……シオンさんの今回の戦略は経験値稼ぎ?」

「経験値稼ぎ以外にも、領民の数も膨れ上がったから、内政の強化も同時進行する必要があるな」

「なるほどぉ……軍師カノン、今回のシオンさんの戦略を理解しましたぁ」


 俺の考えを全て理解出来たカノンはようやく笑顔を見せたのであった。



  ◇



 金沢解放軍を殲滅してから半年後。


 魔王カオルの戦力をチマチマと削っていた結果、福井県と面している地域を除いた白山市に存在していた魔王カオルの支配領域の全てを勢い余って手中に収めた。


 アスター皇国と面している敵対勢力は、魔王カオル、富山県の魔王、富山県の人類、岐阜県の人類。岐阜県の人類は愛知県を中心に大暴れしている十三凶星の一人――魔王ハヤテの対策で手一杯となっており、こちらに侵略してくる様子はなかった。


 アスター皇国の東部――富山県と面している支配領域の一部は『稼ぎ場』として解放しており、富山県の人類や調子に乗った魔王の勢力が連日侵略に来ていた。


 アスター皇国の南部――魔王カオルと面している支配領域は日々互いに侵略を繰り返し、連日連夜争いが行われていた。一時、魔王カオルがこちらの意図に気付き防衛する配下を0にしたが、その時支配領域を奪い取ってからは真面目に防衛をしていた。


 内政に関しては田村女史と長谷部氏、後は防衛担当のヤタロウに委任していた。【支配領域創造】+『科学』の融合は凄まじく、たまに領民の居住区の様子を見に行くと、『本当に俺の支配領域なのか?』と驚くほどの発展を遂げていた。


 幹部に目を移せば、全員が想定通りに経験値を稼ぎレベルアップを果たしており、配布していたグローシリーズも順調に進化を重ねていた。


 他にもここ半年で、変化、成長したことは沢山あるが……一番の成果は――カノンの知識がAへと成長したことだろう。

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