野々市市侵攻15


「お? 今回はどんな悪巧みを思い付いたのですかぁ?」

「悪巧みって……仮にもお前は自称軍師じゃなかったのか?」

「ハッ!? 今回はどのような策を弄するのですかぁ?」


 ってか、こいつは軍師を目指しているのなら……今こそ成り上がるチャンスだろ。


「一騎打ちだ」

「え?」

「一騎打ちだ。知らないのか? 一騎打ちは戦場の華だぞ?」


 俺は昔愛読していた歴史の漫画を思い出す。一騎打ち、敵対する互いの勢力の代表とも言うべき将が一対一で戦う。勝てば天国、負ければ地獄。敗北したら失うのは負けた将の命だけではない。勝者の軍は士気を向上させ、敗者の軍は士気を低下させた。


「普通ですねぇ」

「普通だな」

「シオンっちドンマイ!」

「ご主人様、お疲れでしたら私を嬲ってストレス解消などいかがですか?」

「ふむ……流石のシオンもこの状況では奇策は思い浮かばぬか」

「戦場の華……? つまりは、我が輩の出番と?」


 各々が俺の作戦に対して、ケチを付ける。


「なるほど……。ならば、お前たちの策を言ってみろ? つまらぬ策だったら……どうなるかわかってるよな?」

「あはは……私はいい策だと思いますよぉ!」

「バカヤロウ! 一騎打ち? 最高じゃねーか!」

「ご主人様……ハァハァ……私はどうなるのでしょうか? ハァハァ……」

「さて、儂は防衛の調整に行ってくるかのぉ」

「我が輩は最初からシオン様の作戦に賛成でしたぞ!」


 俺の冷たい視線を受け、配下たちは一斉に手の平を返す。


「それで……アスター皇国から一騎打ちに出るのは誰じゃ?」

「一騎打ちの相手は金沢解放軍で最高レベルの者でいいのか?」


 バカな配下たちとは違い、沈黙を守っていたコテツとリナが俺に問いかける。


「むむ? リナたん、奴らが一騎打ちを受けるとは思いませぬぞ?」


 金沢解放軍に存在する15人のレベル50を超える者。


 『金沢の賢者』と『金沢の聖女』が前線に出てこないので、奴らが金沢解放軍の精神的支柱であることは間違いない。放置すれば、多くの配下を倒すので優先的に討伐しようとサブロウに命じていたが……サブロウたち――チームJが向かえば後方へと撤退。チームJが深追いを止めたら、いつの間にか前線に現れて多くの配下を倒していた。


「リナの質問に対する答えは、イエスだ。一騎打ちの相手は金沢解放軍で最高レベルの人類。コテツの質問に対する答えは――俺だ」

「えっ?」

「は?」

「やばたにえん!」

「危険ではないか?」

「大丈夫なのか?」


 俺の答えに配下たちは一様に驚きを露わにする。


「サブロウの言った通り、主力を向かわせれば奴らは後退する。ならば、目の前に最上級の餌を用意するしかないだろ」


 戦況は常にこちらが押している。時間はかかるが、俺たちが勝つのは明白だ。


 金沢解放軍が唯一勝利を掴める可能性は――俺を倒すことだ。


「確か……一番レベルの高い人類は田村女史が収集した情報によると、溝口みぞぐちと言う30代の男性。レベルは54」


 ちなみに、リナのレベルは56。コテツのレベルは61だ。見た感じ、技量もリナとコテツよりも下だ。


「勝てる自信はあるのか?」


 リナが真剣な眼差しで俺に問いかける。


「自信がなかったら、こんな作戦を言うと思うか?」


 俺も魔王になってから、幾度もの戦闘を重ねてきた。一部の幹部にはまだ劣っているかも知れないが……そんじょそこらの人類に負ける気がない。


 夜に限って言えば、ステータスはトータルで言えば俺の方が上。肉体は互角かも知れないが、装備品が大きく上回っている。


「つまり、シオン様が相手の最高実力者に一騎打ちを挑み、敵の士気を落とすと」

「そうなるな」

「ならば、儂から一つ提案じゃ」


 俺の作戦を一言に纏めたコテツが提案してくる。


「提案? 言ってみろ」

「前哨戦として儂も一騎打ちを仕掛けたい。どうじゃ?」

「コテツが?」

「うむ。儂がシオン様が一騎打ちをする前に、一騎打ちをする。儂も勝って、シオン様も勝つ。どうじゃ、こちらのほうが敵の心はより折れると思わぬか?」


 コテツは好々爺の笑みを浮かべながら提案する。


「別に構わないが……敵は受けるか?」

「言い方次第じゃろ」

「ならば、任せる」

「うむ」


 俺がコテツの提案を呑んだところで、


「ちょっと待ったー!」


 コテツ以上の戦闘狂――タカハルが大声を張り上げる。


「何だ?」

「前哨戦があるなら、俺でもいいじゃねーか!」

「別にタカハルでもいいが……お前だと敵は逃げないか?」

「は? シオンを餌に一騎打ちを挑めばいけるだろ!」

「餌って……お前の主だぞ?」

「そうだ! 主だ! シオンも言ってたじゃねーか! 『俺を守れ』的なことを! つまりは、俺が一騎打ちをするってことだろ!」


 タカハルの言葉は無茶苦茶だ。『つまり』の意味がよく分からない。


 とは言え、どうせ勝つなら圧勝がいい。敵の最高戦力に圧勝してこそ、こちらの士気が上がり、敵の士気が下がると言うものだ。


「参考までに聞くが……コテツとタカハルはどっちが強い?」

「あん? そんなの俺に――」

「コテツ、正直に答えよ」


 俺はタカハルの言葉を遮り、コテツに質問を投げる。


「タカハルと儂なら、強いのは儂――」

「おい!」


 コテツの答えをタカハルが怒気の含んだ声音で遮る。


「――と、先月までなら答えていましたな」

「あん?」


 コテツはタカハルの遮る声を気にせずに、話を続けた。


「『先月までなら』か……今は?」

「正直、分かりませぬ……恐らく10回戦えば、7回はタカハルが勝つでしょう」

「あん? それだと、俺が3回負けるじゃねーか!」

「落ち着けよ……勝率7割だぞ? ちなみに、俺が相手だと?」

「シオン様の力――授与されたアイテムでお相手をしたと仮定しても?」

「そのアイテムはコテツのモノだから、当然そうなるな」

「10回戦えば……畏れながら、シオン様が儂を倒せるのは1回あるかないかですな」

「勝率1割未満かよ」


 畏まりながら、はっきりと俺よりも強いと宣言する配下に俺は苦笑する。


 コテツがなぜ先月までと言ったのか? 答えは、タカハルの成長だった。


 タカハルはここ最近の金沢解放軍との戦いで多くの敵を倒し、幾度となくレベルアップを果たしていた。その結果――


『 名前 :タカハル=シオン

  種族 :獣王

  ランク:A

  LP :0/3000

  肉体 :A

  知識 :E

  魔力 :E

  特殊 :格闘センス

      格闘技(A)

      →双牙

      →崩拳

      →体技

      →回し蹴り

      →双龍脚

      →飛燕脚

      獣化

      咆哮

      息吹

      

  配下 :ウェアウルフ×300

 【編成】        』


 アスター皇国で唯一のAランクに到達した配下になっていた。


 タカハルは魔王の時から肉体全振りだったからな。コテツの圧倒的な技術を力でねじ伏せるか。頼もしいな。


「それじゃ、前哨戦はタカハルに任せるか」

「お! イイね! 任せろっ!」

「圧勝以外は許されないが、いいな?」

「ったりめーだ!」


 作戦は決まった。俺は大局が動くであろう、本日の侵略を楽しみにするのであった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る