野々市市侵攻14


 戦闘開始から6時間後。


 俺は自身の手でどれだけの数の人類を葬ったのだろうか?


 配下たちはどれだけの数の人類を葬ったのだろうか?


 度重なる死闘の末に、俺はレベルアップを果たしていた。


 急速にレベルが上がるのは嬉しいが、手塩にかけて育てた配下を失っては意味が無い。


 敵の数は戦闘員だけで8万人以上、非戦闘員を合わせたら10万人以上。一日で落とすのは無理な話だった。


 俺は配下――幹部たちが副官と定めた眷属のコンディションと倒された配下の数を確認する。


 幹部のコンディションに合わせたら、他の配下は付いていけない。


 配下の損傷率は、3割。


 副官たちの様子は……タカハルのペースに合わせて無理な攻撃を仕掛けているウェアウルフの副官と、攻撃一辺倒であるレッドの副官であるノワールとルージュ、ヒビキに付き合わされているオークの副官あたりがそろそろ限界か?


 逆に、コテツ、リナ、サラの部隊は他の部隊と比べてまだ余裕がありそうだ。


 一度、撤退だな。


 ――総員、撤退だ! 殿はアイアン部隊! サラ、フローラ部隊の範囲攻撃を合図に撤退を開始せよ!


「にしし! あーしたちの出番だね! いっくよー!」

「「「――《サンダーストーム》!」」」

「いくわよ~」

「「「――《ファイヤーストーム》!」」」


 広範囲に広がる紫電を伴う突風と、炎風が戦場に吹き荒れる。


「チッ! もう撤退かよ! 物足りねーな!」

「うぉぉおおお! 暴れ足りないぜ!」

「えーもう帰るの?」


 不完全燃焼の戦闘狂たちが不満を口にするが、俺の命令には逆らえず撤退を開始。他の配下たちは素直に俺の命令通りに撤退を開始した。


「……敵が退いたぞ!」

「勝った、俺たちの勝利だ!」


 人類たちは撤退する俺たちの姿を歓喜の声を上げているが、


「うぉぉぉおおお! 勝ち鬨だ! 勝ち鬨を――」

『人類諸君に告げる。明日もまた来るからな。束の間の休息を楽しんでくれ!』


 俺は【拡声器】を用いて人類の喜びにきっちりと水を差し、撤退したのであった。



 ◆



 10日後。


 毎日侵略を続けてはいるが……追い詰められた人類の抵抗は思いの外激しく、消耗戦のような互いの戦力を削り合う日々が続いていた。


 その間に、魔王カオルには2つの支配領域を奪われるなど、苛立ちは募るばかりであった。


「なぁ、シオン。もうちょっと強引に攻めた方がいいんじゃねーか?」


 タカハルが、進言という名の愚痴を言ったかと思えば、


「シオン、魔王カオルはこちらが支配領域を防衛する気がないのがわかったのか、侵略速度は上がっておるぞ」


 ヤタロウは実務的な被害を報告してくる。


「わかってる」


 元々金沢解放軍の殲滅には10日以上かかる予定だった。現状もそこまで想定から大きくは外れていない。


 とは言え、このまま消耗戦を繰り返すのも癪に障る。


 日々の戦いが消耗戦とは言え、優勢なのはこちらだ。こちらの士気が上がることはあっても、下がることはあり得ない。


「何で、こっちが押してるのに……こんなにも苛つくんだよ……」

「……贅沢病とか?」


 思わず口に出してしまった俺の愚痴に、カノンが答える。


「贅沢病?」

「はい。今までシオンさんは苦戦らしい苦戦が無かったですよね??」

「そうか? 魔王アリサには苦戦したぞ」

「そうですね……あの時はシルバーさんとホープさんを……でも、あの時のことを知っている元人間は、私とリナさんだけですよぉ?」


 俺はカノンの言葉から記憶を呼び起こす。


 古参と思っていたヤタロウも、配下になったのは魔王アリサとの戦い以降だ。それ以降の戦いでの苦戦と言えば……コテツと対峙したときくらいか?


「そうか……二番目に古い元魔王の配下――ヤタロウも知らないのか」

「ですねぇ」

「あ、あの……我が輩はヤタロウ殿より先に配下に……」


 何か聞こえた気はするが、カノンは気にせず会話を続ける。


「それ以降は……いえ、それ以前でもシオンさんの千里眼とも言うべき策は功を奏してました。それに慣れてしまった私を含む配下の皆さんは……今の策もなくぶつかり合う消耗戦に苛ついてるのかなぁ、と思いましたぁ」

「なるほど……故に、贅沢病か」

「はい」


 俺の苦労も知らないで……何て贅沢な配下たちだ。


 とは言え、何か考えるか。


 こちらの士気を上げるのが難しいなら、相手の士気を下げればいいのか?


 何をされたら一番士気が下がる?


「なぁ、タカハル? 敵に何をされたら一番落ち込む?」

「あん? そりゃ、負けたら一番落ち込むだろ?」

「他には?」

「んー……例えば、シオンが死んだら少しは落ち込むんじゃねーか?」

「ほぉ」

「か、勘違いするなよ! 俺に唯一勝ったシオンが死んだら、俺も負けたみてーになるってのが理由だからな!」

「いや、死んだら……アスター皇国は滅ぶだろ」

「あん? どういうことだ?」

「カノン説明してやれ」

「シオンさんが人類に殺されたら……多分、私たちも死んじゃいますぅ」

「は? マジかよ!」

「マジです! ちなみに、相手が魔王なら相手の魔王に強制的に支配されますぅ」

「どっち道、最悪じゃねーか!」

「シオン様が死ぬのはあり得ないと仮定して、皆が悲しむ事態――我が輩は知ってますぞ」


 明後日の方向へと逸れた会話にサブロウが割り込んできた。


「ほぉ。言ってみろ」

「我が輩の敗北です!」

「は?」

「何でだよ!」

「キモいですぅ」

「ありえんてぃ」

「儂は少し悲しいぞ」

「お兄ちゃんの仇はボクが討つね!」


 ドヤ顔を決めたサブロウの言葉にその場にいる全員が突っ込む。


「――な!? し、しかし、我が輩はアスター皇国の切り札! アスター皇国の暗部を担う最強の部隊――チームJの総帥ですぞ!」

「暗部の意味合ってるか?」

「誰が最強だよ!」

「恥部の間違いですかぁ?」


 必死に言い繕うサブロウに、全員がジト目を向ける。


 とは言え、今のサブロウの意見は面白い。


 最強の部隊を倒せば――士気は落ちる。


「明日の作戦は決まったな」


 俺は一つの作戦を思い付き、ほくそ笑むのであった。

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