野々市市侵攻⑨


「イザヨイ、左は任せた」

「畏まりました」


 俺はイザヨイと互いの死角を補う形で最前線へと飛び出す。


 ――《一閃突き》!


 挨拶代わりに目の前にいた人類の喉元に素早い刺突を放つ。


「……グッ」

「な……!? こ、こいつは……シオンだ! 魔王シオンが――」

「騒がしいですね? 主の前です、控えなさい」


 俺の姿を確認し、叫ぼうとした人類の口内にイザヨイの槍が突き刺さる。


 ――イザヨイ!


 俺はイザヨイに声を掛け、愛槍――ブリューナクを大きく振り上げる。


 ――《偃月斬》!


 そして、隙は大きいが威力の大きい偃月斬を放ち、目の前の人類を両断。俺の振り上げたモーションで行動を悟ったイザヨイは、俺の隙を付いて攻撃を仕掛けようとした人類に高速の連続突き――《五月雨突き》を放つ。


 俺とイザヨイ――同じ槍使いである二人の吸血鬼は互いの隙を補いながら、周囲の人類を駆逐する。


「イザヨイ、合せろ!」


 俺は左手を前に出し魔力を練り上げると、イザヨイも同様のモーションに入る。


「「――《ダークナイトテンペスト》!」」


 絡み合う二重の闇の暴風が周囲の人類を纏めて吹き飛ばす。


 ハッハッハ! イイね! イイね! イザヨイと繰り広げる完璧な連携に俺は形容しがたい高揚感に包み込まれる。


「我が名はシオン! 我に逆らいし不敬なる者よ! 我の名を土産に死地へと旅立つがよい!」


 俺はブリューナクの柄を地面に突き立て、口上を述べる。口上は《威圧》となり、周囲に存在する弱き人類たちを恐慌状態へと陥れ、強き人類たちの俺への憎悪を増幅させる。


 ――好機だ! かかれ!


 恐慌状態に陥った人類に配下たちが一斉に襲いかかる。


「ご主人様の足を舐めていいのは私だけですよ?」


 ヒビキが配下のオークを引き連れ、俺と憎悪を募らせる人類との間に立ち塞がると、


「さぁ! 卑しき豚たちよ! 盾を打ち鳴らしなさい! 私たちの責務を全うしますよ!」


 オークたちは一斉に盾を打ち鳴らし、ヒビキは露出している肉体を全面に打ち出すポーズを決める。


 ヒビキの行動は俺の安全を最優先に考えた結果だ。


 主としては、忠誠を尽くす配下の行動を嬉しく思う。


 しかし――高揚していた俺のテンションは、視界に入り込む食い込んだ真紅のTバックとブヒブヒと鳴きながら盾を鳴らす豚(オーク)の群れに冷め始める。


 少し休憩だな……。


 オークの群れに囲まれた俺はグローランサーをオークの後ろから人類に放ちながら、周囲の状況を確認することにした。



 ◆



「貴様が見ていたのは幻影だ」


 サブロウは《ファストスラスト》を攻撃のみではなく、回避にも使用して敵を翻弄している。


 サブロウの戦闘能力の上昇が著しいな……。ツマラナイ台詞を吐いている暇があるなら、隙を付いて攻撃したほうがいいと思うけどな。


「何故だ……何故……勇者が私たちに攻撃を……」

「私は勇者に非ず! 私の名はリナ=シオンだ!」


 リナは動揺する人類を無情にも斬り捨てる。


 初めて魔王アリサの支配領域で人類と対峙した頃と比べたら……精神は大きく成長していた。


「ここっすね!」


 ブルーは戦場を所狭しと動き回り、的確に弱った人類にトドメを刺している。創造された幹部の中では一番トドメを刺しているのはブルーかも知れない。


「お、お前はこちら側じゃ――」


 コテツは黙々と目の前にいる敵を無言で斬り捨てている。


 タカハルとセタンタは相変わらず縦横無尽に暴れているし、サラはそんな突貫する配下をフォローしている。レッドの部隊は相変わらず肉弾一辺倒の立ち回りを展開し、そんなレッドの部隊が空けた穴をクロエとレイラの部隊が冷静にフォローしている。


 好調だ。個の力の差か、士気の差か……要因は幾つもあるだろうが、戦場のどこを見渡しても、配下たちは優勢だった。


「イザヨイ、行くぞ」

「畏まりました」


 俺はイザヨイと共に再び最前線へと飛び出すのであった。



 ◆



 戦闘を開始してから3時間。


 頃合いだな。


 ――サラ! 特大の範囲攻撃を放て!


「り! ――《サンダーストーム》!」


 荒れ狂う紫電を帯びた風が人類を包み込み、


 ――イザヨイ、サブロウ、合わせろ!


「「「――《ダークナイトテンペスト》!」」」


 三重に重なる闇の暴風が人類の群れの中吹き荒れる。


 ――ヒビキ、アイアン部隊は前進! 残りの者は、後退せよ!


 範囲魔法で敵の動きを攪乱した隙に、ヒビキとアイアンの部隊を最前線へと押し上げる。


 場は整ったな。


 俺は【拡声器】を取り出し、口の前へとゆっくりと運んだ。


「静まれ!」


 俺は【拡声器】を通して一喝する。


「先程、我がアスター皇国に身を寄せた貴殿の仲間から嘆願を受けた! 嘆願を述べた者の名は――長谷部氏。長谷部氏は無駄に命を散らす貴殿たちに再度チャンスを与えるように嘆願してきた! 本来であれば、約定通り武力をもって死を与えるところだが……長谷部氏の仲間を想う気持ちに――一度だけ応えよう!」


 俺はゆっくりと出来るだけ感情を乗せて言葉を告げる。


「長谷部氏……市議の長谷部先生か!?」

「長谷部さんは昨日降伏したらしいな……」

「穏健派の長谷部先生か……」


 長谷部氏の知名度はそこそこ高いようだ。多くの人類がその名を聞いて、動揺を露わにする。


「嘆願の内容は――今一度、貴殿たちに投降するチャンスを与えて欲しい。と言う内容であった。信じる、信じないは……貴殿たちの自由だ。賢い者であれば、今ほどの戦いで――我々と貴殿たちとの戦力の差に気付いただろう。貴殿たちに死を与えるのは容易い。しかし、俺は長谷部氏の投降して尚、仲間を想うその気持ちに応えたい!」


 人類は武器を下ろし、完全に俺の言葉に耳を傾けている。


「チャンスは一度だ! アスター皇国の王である俺は貴殿らに再度告げる。投降を申し出る者には、門戸を開き慈悲を与える。抵抗をする者には、武力によって応え死を与える。人類諸君に告げる。――投降か、抵抗か? 己が進む道を己が意志で決めよ! 猶予は、これより24時間! 投降する意志のある者は武装を解除し、我が支配領域を訪れよ!」


 俺は二回目となる勧告を人類へと告げたのであった。

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