外伝 幹部たちの日常


(リナ視点)


 シオンから部隊の配備を決めて良いとは言われたが……難しいな。


 私に与えられた配下はゴブリン種700体とピクシー種300体。ゴブリン種と一言に言っても、Bランクのゴブリンジェネラル、Cランクのゴブリンストライダー、ゴブリンブレイバーからDランクのゴブリンアーチャーやゴブリンファイターまで様々な種族が混在しており、ピクシー種も同様にBランクのハイピクシーとDランクのピクシーが混在していた。


 割合的にはBランク5%、Cランク35%、Dランク60%。


 ヤタロウが『この5%のBランクを絞り出すのがどれほど大変なことか……』と嘆いていたので、戦力として十分なのであろう。


 その他に副官として、ゴブリンストライダーのブルーと、ハイピクシーのスイレン。以上が私が与えられた部隊だ。


 妖精種は必要LPが低く、シオン曰く私のLPだけで300体近くの妖精種を率いることが可能らしい。私以外にもブルーとスイレン、後は5人のゴブリンジェネラルが眷属となっている。


 眷属にはミスリル製の装備が支給されており、残りの配下にも最低限の装備は配備されている。しかし、言い換えれば最低限の装備だ。


 全員にせめてミスリル製の装備を……と願いたいが、それは叶わない。


 ならば、前線に立つであろうゴブリンたちに質の良い防具を支給すべきか……それとも、ヤタロウ曰く希少な配下であるBランクの配下により良い装備を支給すべきか……。


 この先、私たちを待ち受けているのは――戦争だ。誰一人死なずに帰還するのは叶わないだろう。


 私は、私の部隊から死者を出したくない……。しかし、それは贅沢過ぎる――夢物語だ。


「ブルー、スイレン、貴方たちはどう思う?」


 悩んだ私は副官である二人に助言を求めた。


「CP9000っすよね?」


 ブルーは真剣な表情を浮かべて思案してくれる。


「そうだ」

「とりあえず、最高級の肉を要望するのはどうっすか?」


 ブルーに少しでも期待した私が愚かだった。


「バカね! リナ姉様が呆れてるわよ」

「ムッ! バカとは失礼っすね!」


 スイレンとブルーが口喧嘩を始める。


「スイレン、貴方の考えは?」

「ふふっ。お肉なんて無粋ですわ。頼むなら美容にも効果のある高級な蜜ですよね!」


 スイレンの答えも大きく的を外していた。


 シオンがかつて『カノンが来るまで相談する相手はいなかった』と愚痴っていたのを思い出す。


 なるほど……。確かに、これは配下に相談するのは無理だ。


「ブルーの要望が肉で、スイレンの要望が蜜か」

「そうっす!」

「ですわ!」

「仮に要望を出したとして……あのシオンが受け入れると思うか?」

「そ、それは……何ごとも挑戦することが大切っす!」

「シオン様は殿方……厳しいですわね」


 冷や汗を垂らすブルーと、どこかズレた答えを導き出すスイレン。


「少し席を外す」


 私は頼れる相談相手を求めて自宅に向かうのであった。


 ◆



「少し時間いい?」


 私は自宅に戻ると、友人であり同居人であり頼れる相談相手でもある――カノンに声を掛ける。


「はぁい! 大丈夫ですよぉ!」


 笑顔で私の元へと飛んできたカノンに、先程の悩みを打ち明けた。


「ふむふむ……。なるほどぉ。CPの使い道ですかぁ」

「うむ。助言が欲しい」

「そうですねぇ。まずは下賜されたオリハルコンシリーズですが……眷属のゴブリンジェネラルさんに与えてはいかがですかぁ?」

「スイレンではなく、ゴブリンジェネラルに与えるのか?」

「はい! ブルーさんは幹部なので装備は充実しています。スイレンさんはハイピクシーなので後方からの支援が主体になります」

「ふむ」


 私はカノンの言葉に耳を傾ける。


「ここは思い切って前衛の要であるゴブリンジェネラルさんにオリハルコンシリーズを渡すのは有効だと思いますよぉ」

「なるほど」

「ポイントはリナさんの指揮ですぅ。リナさんは後方支援のハイピクシーやゴブリンアーチャーを危険に晒すことなく部隊を立ち回らせる必要がありますぅ」

「私の指揮か……」

「同様の考えで行けば、前衛の配下――ゴブリンさんたちの防具を充実。そして後衛の配下――ピクシーさんの武器を充実させればいいと思いますよぉ」

「なるほど……。カノンは凄いな」

「えへへ……私はリナさんと違って戦闘には余り参加していません。でも、誰よりもシオンさんの近くで、シオンさんを見てきましたからぁ」


 カノンは胸を張って笑顔を浮かべる。


「なるほど」

「ふふっ。せっかくなのでCP9000の使い道も一緒に考えましょうか」

「助かる」

「私とリナさんはかけがえのない友人ですから……えへへ」


 こうして私はカノンと共に与えられた9000CPの使い道を考えたのであった。



 ◇



(ヒビキ視点)


 CP9000の使い道ですか……。


 全配下に真紅のTバックを配備して士気を高めるのもありですが、ご主人様が許してはくれないでしょう。


「ブタよ。私たちの使命はわかっていますね?」


 私は副官であるオーク――ブタに声を掛けます。


 ブタ……ただ名前を呼ばれるだけで甘美に酔いしれることが出来る、最高の名です。


「我々スクラーヴェシュバインはご主人様にご奉仕を捧げることが使命です!」


 調教した甲斐もあってブタが満点の解答をします。


「その通りです。しかし、奉仕の道とは厳しくも険しい道です。全ての攻撃を受け止めなくてはいけません! ダメージに酔いしれたい! その気持ちはわかります! しかし! 死んでは甘美を感じることが出来なければ、ご奉仕も出来ません!」

「は、はい……」

「ブタ……? 貴方はまだこの部隊――スクラーヴェシュバインの理念を理解していないのですか?」


 ブタにはまだ褒美(痛み)が足りなかったのでしょうか?


「い、いえ! そのようなことはありません!」

「よろしい! 私は与えられたCPを用いて防具を申請します。ご主人様のアイテムは矢を弾き、剣からその身を守るでしょう……。しかし、私たちはその強固な防具に守られるからこそ、より多くの攻撃を受けれる……! そのように受け止め、奉仕に励みます!」

「畏まりました!」


 ご主人様が従順なる下僕たる私に求めるのは――肉盾。


 不肖ヒビキ=シオン! ご主人様のご期待に添えるべく最高の部隊を作り上げて見せましょう!! 

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