侵攻再開
「調子はどうですかぁ?」
スマートフォンで配下の演習を確認している俺に、カノンが声を掛けてきた。
「まずまずだな」
副官の選定も終わり、部隊として正式稼働してから1週間。配下を与えられた幹部たちは、満更でもない様子で部隊に配属された配下たちと共に演習を繰り返していた。
俺から与えるべき命令は――『突撃』、『攻撃』、『守備』、『待機』、『移動』、『救援』、『撤退』の簡素化された7種類のみ。
これだけ簡易的な命令であれば、脳筋のタカハルでも理解は出来た。
「と言うことは……そろそろ仕掛けるのですかぁ?」
「そうなるな」
金沢解放軍の重要拠点の一つ――石川大学を《統治》に成功したのだが、それ以降は各々の勢力が様子見の段階に入り、静観状態になっている。
前回の様に策を弄してもよいが、二度目も前回と同じように上手くいく補償はない。
「おぉ、今度はどんな策を弄するのですかぁ?」
「力押しだな」
「ふぁ!? 小細工はなしなのですかぁ?」
「小細工って……なんだよ? なら、逆に聞くが……自称参謀としては何か策はあるのか?」
「う”……えっと、えっとですねぇ……――!
「ほぉ。どんな策だ?」
「はい! 二虎競食の計とはですね、飢えた二匹の虎の間に餌を投げ込むのですよ! そうすれば、二匹の虎――すなわち、金沢解放軍と魔王カオルは互いに餌を取り合い争うのです! 一匹は倒され、勝った方も満身創痍! なれば討ち取るのも容易いでしょう!」
カノンは鼻をプクッと膨らませ、ドヤ顔を浮かべる。
「ほぉ……。何か本でも読んだのか?」
「はい! 歴史の書物を少々!」
「素晴らしい! で、餌は何だ?」
「えっ?」
「いや、だから二匹の虎――金沢解放軍と魔王カオルが奪い合う餌だ」
「そ、それは……」
ノープランかよ……。過去の書物から様々な策略を探すのは容易だ。しかし、それを実現するのは容易ではない。過去の軍師が歴史に名を残す所以は――その場、その時、置かれた状況から最適な策を弄するからだ。例え知識があっても、状況に当て嵌まっていないかったら意味はない。
「金沢解放軍と魔王カオルを互いに争わせ、疲弊させることが出来れば最高だ。しかし、それを実現させることは容易ではない」
「ですね……」
「ならば、選べる選択肢の中から最適な選択肢を選ぶことが重要となる」
「最適な選択肢ですかぁ?」
「そうだ。最終的に俺が石川県を統一するとして……その過程で金沢解放軍と魔王カオル。どちらの勢力が力を付けるのが望ましい?」
「金沢解放軍と魔王カオルですかぁ?」
「言い換えるなら、
「――!
一度でも支配領域が解放されてしまえば、《統治》で取り返したときは支配領域の広さは28.26k㎡になってしまう。魔王が最初から保有している支配領域であれば広さは6k㎡。その差は4倍以上。
支配領域を一つ増やす度に、最大CPは100増加する。つまり、人類に支配領域を解放されることは将来的に得られる最大CPが減少することを意味していた。
故に、俺は力押しとなってでも金沢解放軍――人類の土地を侵略する。
その過程で、金沢解放軍が俺の侵略に対して全力で防衛をしてくるかも知れない。その隙に手薄となった白山市を魔王カオルが侵略するかも知れない。
今回の力押しで、一番得するのは魔王カオルだ。
しかし、最悪の結果――人類による支配領域の解放は免れる。
こうした結論から、俺は金沢解放軍に対しての力押しによる侵略を始めることにした。
◆
「――と言う訳で、三日後の18:00より金沢解放軍――人類に《統治》を仕掛ける」
俺は招集した幹部たちに今後の予定を告げた。
「各自、与えられた部隊の調子はどうだ?」
「問題ねーな!」
「おけまる水産!」
「豚と罵られし我らの誇り……ご覧に入れましょう!」
タカハル、サラ、ヒビキが自信に満ちた笑顔を浮かべて返事をすると、他の幹部たちも次々に肯定の返事をする。
「コテツ、いけるな?」
「お任せ下さい」
俺は最後に人類を率いるコテツに確認をすると、コテツは力強く首肯した。
最終的に人類の志願兵は1万人以上に及んだ。支配領域の外に出るには眷属にならなければいけない仕様上、今回は3人の人類をコテツの部隊に編成。その他の志願した人類はヤタロウの配下に組み入れ防衛の任を与えた。
「それでは部隊を率いる幹部には、オリハルコンシリーズ一式とCP9000までのアイテムの申請を許可する。与えられた部隊に応じて、各々が使い道を考えろ」
配備するアイテムを俺が全て考えるよりも、幹部――部隊長に委ねた方が、より意識は高まるだろう。タカハルあたりは『面倒だ』と言い出すかとも思ったが、日々の演習を見る限り全員が与えられた部隊に愛着を感じているのは一目瞭然であった。
「CP9000って言われても、アイテムを錬成するのに必要なCPはわからんぞ」
「そうだな……。カノン、アイテムの錬成に必要なCPを各幹部にメールしてくれ」
「はーい! 了解しましたぁ」
カノンが元気に返事をする。
「以上となるが、何か意見がある者はいるか?」
「はーい! はーい!」
サラがウザいくらいの元気良さで挙手をする。
「何だ?」
「部下に与えるアイテムだけど……アキラっちに鍛冶を頼んでもいいの?」
「問題ない」
「必要な素材を狩りに出掛けるのもおけまる?」
「今は狩りを控えろ。蓄えてある素材を使うことは許可する。アキラ問題ないな?」
「……ない」
サラの提案にアキラが首肯すると、次にタカハルが挙手をする。
「んじゃ、狩りに出掛けるのは部下と一緒でもいいのか?」
「問題はないが……俺の命令で支配領域を侵略する場合は、その限りではない」
「と言うと?」
「支配領域の侵略メンバーは変わらず、リナ部隊とクロエ部隊とする。この決定事項に異論は許可しない」
「あいよ」
自主性が芽生えるのは良いが、締めるところは締めなくはいけない。
「シオン様、儂からもいいですかな?」
コテツが声を掛けてくる。
「何だ?」
「シオン様から下賜された村雨ですが……副官に貸し与えてもよろしいでしょうか?」
村雨――CP9000を消費して錬成したユニークアイテムの刀。
コテツは頑なに村雨ではなく神器――『佐山』を愛用している。確かに、現状では村雨は倉庫の肥やしに等しい状態だ。ならば、副官に与えた方が理に叶っているのだろうが……とは言え、村雨は俺が錬成出来るアイテムの中でも最高峰の武器の一つだ。副官如きに与えるのは少し惜しい気もする。
「コテツは村雨を使う気はないのか?」
「儂には、シオン様から下賜された『佐山』があります」
「『佐山』と村雨だと……村雨のほうが性能は上だろ?」
「無論。しかし、『佐山』には儂の魂を注いでおります」
配下になって以来、コテツは従順だ。敵である人類に対しての割り切りは孫であるリナよりもよほど冷酷で、頼れる配下だ。しかし、こと神器――『佐山』に対しては頑固な一面を見せる。
「分かった、許可しよう。但し――村雨を敵に奪われる失態は何があっても許さぬ。そのような事態に陥りそうな局面になれば、俺はコテツの副官よりも村雨の保護を優先して命令を下す。それでもいいな?」
「承知致しました」
コテツは顔をしかめながらも深く頭を下げる。
「他に意見がある者はいるか?」
幹部たちの顔を見渡すが、誰からも声はあがらない。
「それでは、これにて解散とする。各自、三日後に備えて準備に励め」
幹部たちは散り散りに部屋から退室していったのであった。
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